SSS
過去拍手、小ネタ置き場
::過去拍手(とある所有物の悩み事)
お胸の話
人間が睡眠中に見る夢の内容には、その人の潜在意識が大きく関係しているのではないかという説がある
たとえば夢の中で誰か知らない人が出てきたとする
でもそれは決して出逢ったことがない人というわけではなく、今日街中ですれ違った人だったりとか、信号待ちをしているときに道路の向こう側にいた人だったりとかするらしい
ただそのときの自分が相手を認識していなかったというだけで、無意識の内に脳がその相手の顔を記憶しまうのだと言う
だから睡眠中の記憶整理の際、自分の夢の登場人物として現れた時点で、その人とは以前に出逢っている可能性が高いのだそうだ
けれど、そうなると疑問が1つ浮かぶ
――――目覚めた夫が妻に向かって開口一番「着物を脱げ」と言ってくるような夢って、一体どんな潜在意識が働いた結果なのだろう?
「何度も言わせないでくれる。早く脱ぎなよ」
「え、いいえ、あの……」
私の両肩を荒々しく掴んだまま、恭弥はまるでアクション映画終盤で追い込まれた主人公のような緊迫した顔をしていた
けれどその口は先ほどから一統して「服を脱げ」なんて、まるで時代劇のお代官様のような悪役っぽい台詞ばかりが紡いでいる
……なんだろう、この状況は。
時刻は午前3時
巨大化したヒバードの背に乗せてもらって並盛上空を気持ちよく旋回していたら、どこからともなく同じくヒバードに乗った恭弥が飛んできて、そのまま仲良く一緒に空の散歩を楽しんで、並盛中学の屋上に降りたら何故かお互い中学生の姿になっていて、「何してるの、早く校内の見回りに行くよ」って恭弥に腕を引かれて……
そんな可笑しくもあり懐かしくもある幸せな夢を見ていたのだけれど、惜しいことにそこで目が覚めてしまった
夢の中にまで聞こえてきた雑音の出所を探るように、少し眉を寄せながら薄暗い寝室の中を見渡した
すると、すぐ隣にいる恭弥が、夢の中の清々しい表情とは打って変わって苦悶の表情を浮かべてうめき声を上げているのを見つけたのだ
慌てて揺すり起こしたら、恭弥は布団から飛び起きるなり私を見て、それから言った
――――「ちょっと脱いで」、と。
思わず目を点にした私にお構いなしに、恭弥は私の両肩に掴みかかって今度は「早くしろ」と睨んできた
雲雀恭弥という人は常に冷静沈着で、完全に想定外の事態に陥ったとしてもピクリとも眉尻を動かさない人間だ
それどころか追いつめられるほどに楽しそうな笑みを浮かべて、いともたやすくその状況をひっくり返して、更に相手の泣きっ面に蜂を押し付けてほくそ笑むような男なのだ
そんな人がこんなにも動揺した様子で、迫るというか必死に縋りつくように私の肩を掴んでいる目の前の状況が、私にはまったく理解できなかった
それほど怖い夢を見たということなのだろうけれど、あの恭弥をここまで冷静でいられなくするなんて、一体どんな内容だったのだろう
そして私にストリップを求めることと一体何の関係があるというの
とにかく理由もわからないのに肌を晒すわけにもいかず、私はもぞもぞと身を捩った
「あの、とりあえず離してください」
「嫌だ。きみが脱げば解決するんだから早く」
「ですから、どうしてです? いきなり脱げなんて仰られても困ります」
「何を困ることがあるの。ほぼ毎晩見てるんだから今更だろう」
「そういう意味ではなくて……」
私の話など、そもそも聞く気もないのだろう
こうなってしまった恭弥には何を言おうと無駄だ
その証拠に彼は終わりの見えないいたちごっこに痺れを切らしたようで、ある折に「チッ」と舌打ちが聞こえたかと思えば、大きな両手が私の肩から腰に移動する
それからやっぱり強引に私の浴衣の帯をほどき始めた
ああ、もう
仕方ないなぁ、この我が儘さんめ
「恭弥」
「なに……、っ!」
彼の眼前に突き出した両手を、そのまま至近距離で思い切り叩き合わせた
ぱんっ! と思っていたよりも大きな音が鳴り、それはまるで波紋のように深夜の家に広がって消えていく
恭弥だって一応ちゃんと人間だ
目の前で衝撃があれば反射的に目を瞑り、一瞬であろうとそれに意識を奪われるものである
私はその隙をついて恭弥としっかり目を合わせ、にこりと微笑んだ
「はい、一度落ち着きましょうね」
「…………」
まるで、落ち着きのない幼稚園児に言い聞かせる先生のような口調だった
けれど今の恭弥には存外効いたらしい
青灰色の瞳が数回瞬きを繰り返し、もう解ける寸前だった帯から恭弥の手が離れていく
背後でそれを感じ私も手を下ろすと、お互いに改めて布団の上で向かい合った
落ち着いたとはいえ、きっと彼の中では私が浴衣を脱ぐのは決定事項なのだろう
そこはまぁ恭弥なのだからと諦めるとしても、せめて理由くらい教えていただいて然るべきだ
「どんな夢だったんです? いきなり「脱げ」だなんて」
心配半分、純粋な興味半分で聞いた
だって、常日頃から泣く子も咬み殺すこの鬼神様があそこまで取り乱すほどの怖い夢だなんて、どんな内容だったのか普通気になるじゃないか
じっと恭弥を見つめると、枕元の行燈から漏れる光に照らされた恭弥は、何とも複雑な表情をして私に一瞥をくれた
「……風呂に入ってたんだ。きみと2人で」
「え?」
「いつもみたいに、きみが背中を流してくれてね」
気持ちよかった、としみじみ言った恭弥
今度は私がポカンとした
……なんだ
てっきりもっとホラー要素のある夢か、それとも過去の屈辱的すぎる敗北を再現したような夢でも見たのかと思っていたのに、恭弥も恭弥でほのぼのとした夢を見ていたようだ
けれどもちろんそこで彼の話が終わるはずはなく、一段と低くなった声が続きを辿り始める
「それで、髪も洗ってもらって」
「はい」
「たまにはきみの背中も流してやろうと思ってさ」
「まぁ、ありがとうございます」
「ああ、どういたしまして」
思わずお礼を言ってしまうと、流れでそう返された後に「話の腰を折るな」と睨まれたので口を噤む
恭弥ははぁっと息を吐くと、猫背になっていた背中を真っ直ぐに伸ばして、いつも哲さんから諸々の報告を聞くときのように両手を袖に突っこんだ
何となく仕事中の緊迫感に似た空気を漂わせる所作を見て、こちらの背筋も自然にピンと立つ
「……それで、きみを振り返って」
「はい」
「邪魔だからって無理やりタオルを剥いで」
「えっ。あ、はい」
「そしたらさ」
「は……はい」
「……なかったんだ」
「なかった……?」
「胸がさ。なかったんだよね」
瞬間、私と恭弥の間の時間が止まった
いや、凍り付いたと言うべきか
さっと恭弥が私の胸を見やり、同時に私はさっと自分の胸元を両腕で抱えるように隠す
「…………」
「…………」
獲物を吟味する肉食獣と、蛇に睨まれた蛙状態になりながらも牽制する小動物
一触即発のピリピリした緊張の中で沈黙し、睨み合うこと約10秒
息苦しさを感じるほどの空気が、恭弥の一言で断たれた
「だから、夫として真偽を確認する必要があると思うんだ。念のために」
「あらあら、出逢ってから10年も経ったこの期に及んで、ですか?」
「念のためって言っただろう。それにきみだって妻として夫を安心させる義務があるんじゃないのかい」
じりじりとにじり寄ってくる恭弥
それに比例してじりじりと後退りする私
傍から見たらまるっきり時代劇のアレだ
「お殿様お戯れを」「良いではないか良いではないか」のあのシーンの一歩手前の光景だ
何が問題かって、そのお殿様……じゃない恭弥の瞳が、いたって真剣で真っ直ぐであるということが何よりも私を困らせた
「……お胸が小さい女性なんて、沢山いらっしゃいますよ」
「いや、小さいとかそういう次元じゃない。なかったんだよ、本当に。まな板って言うの、ああいうの。とにかくぺたんこでさ、揉むほどもないというか、男なんじゃないかってくらい」
「それ以上仰るなら怒りますよ」
記憶を辿るように目を細めて事細かに説明する声を、片手で拳を作って見せて遮った
その台詞はこの世の何割かの女性に対する侮蔑だわ
というかそんな腰が砕けそうな美声で女性の胸を語られても困る
「……とにかく、私は女性です。あなただってよくご存知でしょう?」
「ワォ、下ネt「下的な意味ではなくて」
「…………」
「さぁ、もう遅い時間です。今お水を持ってきますから、それを飲んでお休みになってください」
何事かと思えば、何だかとっても失礼な話じゃないか
途中までは最終的に脱がされるのは仕方ないと諦めていた気持ちを、そんな馬鹿げた理由で肌を晒してなどやるものかと意固地になって奥の方へと押し込む
まったく納得できていない様子の恭弥を残し、私は帯を締め直してから立ち上がって寝室を出て行った
―*―*―*―
台所ののれんをくぐり、明かりをつける
そこで小さく息を吐き出して、私はそのままシンクに向かう……のではなく、身を隠すように調理場の隅へ移動した
「胸がさ。なかったんだよね」
「…………」
夢は、その人の潜在意識の表れ
そして恭弥の夢に出てきた私は男と見紛うほど、胸がなかった
そりゃあ、実際お世辞にも大きいとは言えないボリュームだし、同年代の女性と比べれば大分控えめであると自覚はあるけれど、今まで恭弥からそういう類の苦言を受けたことは一度もない
何度となく肌を重ねてきたこの幾年か、一度たりとも、彼は私の胸の大きさ云々を気にするようなことはなかった
……なかった、けれど。
もしかして、それこそが恭弥の潜在意識なのではないのだろうか
本人が意識しているわけではなく、脳が勝手に、「自分が求めるボリュームよりもかなり小さい」と記憶しているのでは
シャマル先生だっていつだったか「小さい胸じゃ物足りないって男はいるが、デカい胸が嫌いって男はいねぇからなぁ」とか言っていたし
……つまり私は、無意識とはいえ夢にまで見てしまうほど、恭弥に毎晩「物足りない胸だなぁ」と思われていたということか
「(……そう、ですよね。恭弥だって男性ですし……小さいよりは、大きいに越したことありませんよね……)」
不満を隠されていたと言うのならショックだけれど、無意識と言われるのもそれはそれでショックだった
発育途上だった中学生の頃から毎日の食事はきちんと栄養バランスを考えて作っていたし、それなりに運動だってしてきたし、豆乳を飲んだりお風呂でマッサージしてみたりと隠れた努力だってしてきたのに、なんだってこの胸は主人の思い通りに成長してくれないのだろう
必要な条件は揃っている、はずなのに
女性の胸の大きさは20歳でほぼ止まってしまうと言う
つまり私はもう手遅れなのだ
……これはもういよいよバストアップサプリに手を出すしかないのだろうか
じーっと、浴衣の合わせから自分の胸を覗き込んで、あれやこれやとぐるぐる思案する
「……シャマル先生に相談してみようかしら……」
「そんなことしたら咬み殺すよ。主に医者の方を」
「!!」
胸に集中しながらぽつりと呟くと、独り言だったはずが間髪入れずに返事が返ってきた
それに驚いて顔を上げると、浴衣姿の恭弥が台所の入り口に背を預け、じっとこちらを見つめていた
きっと水一杯取ってくるだけなのになかなか戻ってこない私の様子を見に来てくれたのだろう
冷静に状況を理解する頭とは裏腹に心臓が悲鳴を上げた
バッ! と慌てて浴衣の合わせを引き寄せて胸元を隠す
恭弥は今ではすっかり落ち着いたのか、そんな私を見てやれやれと肩を竦めると、いつも通りの涼しい顔でこちらに歩み寄ってきた
四足で獲物を追い詰める猛獣の姿が重なって見えて、とっさに後退る
けれど自分から隅に移動していた私の背後はもう壁だ
背にひやりとした行き止まりを感じ、サーッと血の気が引いた
「逃げなくたっていいだろう」
「……っ」
別の逃げ道を探そうとする視線さえ遮るように、恭弥が私の両側に手をついた
せめてと思ってくるりと体の向きを変え、彼に背中を向ける
ああ、だめ
今、絶対に真っ赤だ
「……あ、あの……胸なら、ちゃんとありましたから……」
「生憎だけど、僕は自分の目で見たものしか信じないよ。知ってるだろう」
いやいや、10年連れ添った妻の言葉くらい信じていただきたいのだけれど、その声にはあきらかな下心というか愉しそうな響きが混じっていた
更に悪いことに、落ち着いた分、彼にはいつもの素早さが戻っているようだ
それまで真っ白の壁しか映っていなかった私の視界に、いきなり黒い影が背後から伸びてきた
……それが恭弥の右腕だと分かったときにはもう、その大きな手は、私の浴衣の中に侵入してきていた
「ひっ……!?」
「……もう少し色気のある声出せないのかい」
呆れたような声がすぐそこで聞こえた
寝るときの習慣で下着も何も身に付けていない胸を、固くしっかりとした大きな手のひらに鷲掴みにされる
抵抗しようとした両手はいつの間にか恭弥の左手でひとまとめに拘束されていて、背中全体に恭弥の体温を感じた
「やっ、あ、」
「……着物の合わせって、後ろからこういうことがしやすいように右前なのかもね」
「そ……っ、そんなわけ、っ」
ないでしょう、と続けようとした声は、恭弥の右手がやわやわと動き出したことで喉の奥に引っ込んだ
その存在を確かめるように包み込まれて、軽く潰されたり形を変えられたり、ぷにぷにとつつくように指がバラバラに動いたり
信じられない心持ちでそれを視界の下に見ながら、悲鳴さえ出せずにその緩い快感に耐えて唇を結ぶ
その状態で何秒か耐えた後、彼はようやく私の胸の存在を確認できたのか、するりと右手を引き抜いた
すっかり熱くなった浴衣の中に夜の冷たい空気が入り込んできて、ふるっと体が震える
散々乱された浴衣の合わせを涙目で直して恨めしげに振り向けば、恭弥は満足そうに……というか、愉しそうに私を見ていた
「……ご満足いただけましたか」
「ああ。ちゃんとあったよ、胸」
良かったね、と微笑みを向けられて遠い目になる
言いたいことは山ほどあったけれど、この唯我独尊の僕様にどんな苦言を呈したところで焼け石に水なのはわかっていた
それどころか「お仕置き」とばかりにこの場で更に過激なことをされかねない
深く息を吐き出して、それから本来の目的を遂行しようとシンクに向かう
けれど、グラスに水を注ぐ間、私も少しは冷静になれたのか、ぽつりとこんな一言が零れた
「……恭弥は」
「ん?」
「やっぱり、その……大きい方が、お好きですよね」
キュ、と蛇口を捻って水を止める
馬鹿なことを聞いたとすぐに我に返ったけれど、口にしたことでますます不安が押し寄せた
どうしよう、「まぁね」なんて言われたら
「本当は物足りないと思ってたよ」なんて言われたら……
ドキドキと鳴る鼓動を感じながら、振り向けないまま返事を待つ
ふぅ、と背後から溜め息が聞こえた
「……胸の大きさなんか興味ないよ」
「で、ですが……物足りなく、ありませんか?」
グラスを持つ手に力が入った
頭の中のシャマル先生の笑顔がそれに追い打ちをかける
自分のスタイルに固執するつもりはないけれど、大好きな人にどう思われるかという観点からすれば、女として重大なポイントだ
「……まぁ、確かにきみの胸は大きくはないけど」
聞き捨てならない台詞が聞こえて体が強張る
けれどその次には隣に立った恭弥にぽんっと頭を撫でられて、自然と肩が下りた
「もしも胸の大きい美人と胸の小さいきみのどちらか好きな方を選べと言われたら、僕はきみを選ぶ」
「……え……」
てっきり、「でも形はいいよね」とか「色は綺麗だよね」とか月並みな慰めが来るかと思っていたのだけれど、実際に降ってきた言葉はそんなものよりもストレートに私の心に刺さった
思わず顔を上げて隣を見ると、その先にいた恭弥はやっぱり呆れ顔で、でも優しく私の髪を撫でていた
片手でグラスを抜き取られ、それがシンクの隣に置かれるのを視界の端に見ながら、綺麗な青灰色を見つめる
「男は、女が思っているほど体つきのことは気にしないよ」
「……でも、小さいでしょう? 私の……」
「ああ、小さいね。でも別にいいよ、好きだから」
「えっ……小さい方が、ですか?」
「違う。きみが、だよ」
「……!」
「それに、心配しなくても物足りなさは感じてない。小さい方が感度がいいって言うし、もうそのサイズに愛着が湧いてるくらいだ。きみの体は上から下まで全部僕のものなんだから、たとえきみ本人であろうと卑下することは許さないよ」
まるでお説教でもするような口調が、むしろ嬉しかった
恭弥は他の人のように相手を気遣って言葉を考えたり、励ましたりするような人じゃない
変に台詞をいじったりせずに、いつも自分が感じたそのままを真っ直ぐに口にする
――――つまり今の言葉は、紛れもなく恭弥の本心なのだ
それまでの不安が解けたのか、じわじわと頬と目元に熱が集中していくのを感じる
恭弥の真っ直ぐな眼差しが恥ずかしくて俯くと、頭の上に乗っていた恭弥の手が不意に力を入れた
よろけた体を、恭弥が全身で受け止めてくれる
あっという間にすっぽりと抱きくるまれて、ぎゅうっと胸が締め付けられるような苦しさを感じた
「ゆ……夢に見るほど、小さいと思われているのかと思いました……」
「……夢を見るメカニズムなんて、解明されていないことの方が多いんだよ。決めつけるなんてきみらしくないな」
「……だって、あなたにだけは物足りないなんて思われたくありませんし……それに」
「それに?」
「ま……っ、満足、していただきたいですし……」
「……ふぅん……じゃあ早速、満足させてもらおうか」
それまでは呆れの色を覗かせていた声が、急に淫靡な色香を孕んだ
その変化と言葉自体にぎょっとして顔を上げると、彼はもうすっかりいつも通りの悪戯な笑みを湛えて、すっと身を屈めた
膝裏と背中に逞しい腕を感じたかと思えば、刹那、ふわりと体が浮く
脚が床から離れた不安から無意識に恭弥の首にしがみつくと、耳元でくすくす笑う声がした
「えっ、あ、あの……ですが、」
「なに」
「も……もう遅い時間ですし、朝からお仕事が」
「そうだね」
「そうだねって」
「何とかなるだろう。死にはしないよ」
けろりと言ってのけた恭弥に、開いた口が塞がらなかった
……でも、ああ、そうだ
雲雀恭弥という男は――――私の旦那様は、こういう人だ
諦めて体の力を抜き、恭弥の首筋に頭を預ける
シンクに置かれたままのグラスが気になったけれど、言ったところで戻ってくれるわけもない
目と鼻の先で機嫌よく弧を描いている唇を見つめて、それからもう一度だけ、自分の胸を一瞥して
「別にいいよ、好きだからね」
「――――……っ」
あまりにもあっさりとした告白を何度も何度も反芻しながら
私は恭弥を満足させるべく、秘め事の待つ寝室へと運ばれていった
とある所有物の悩み事
(そういえば、子供を産むと大きくなるって言うよね。あれ本当かな)
(えっ)
(試してみようか)
(!?)
2015.10.11 (Sun) │ ※
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