契約者になる

雨読くんと私 2

第二話「契約者になる」

男装の死神こと、東は安アパートの窓辺に腰掛けて煙を吸っていた。
ぼろぼろのカップ酒の容器に、線香を挿してその煙を吸っているのだ。
しかも、真昼だというのにピンク色の下着のみの姿だ。

「ねえ、東。外から見えてしまうよ」

茶色い髪を1本の三つ編みに編み上げているもう一人の死神、南が東に優しく語りかけた。彼女は今、黒いロリータ服を着ていた。

「南、現世の線香の煙はおいしいよ。タバコや花火、燻製の煙……いろいろ試したけどやっぱり線香が一番だね。なんか、落ち着く」

煙を吸いながら遠くを見つめる東に、南はやさしくタオルケットをかけた。

「クリスタルウォーターの水鉄砲、忘れないでね」
「ありがとう、南」

クリスタルウォーター……水晶を天然水に入れ、エネルギーを転写した水は、死神である彼女たちと霊には浄化の力が強いため、素手で触ると一時的に火傷のように腫れたり爛れたりすることがある。三日もあれば完治はするが、それまでひりひりと痛むのだ。
生身の人間でいえば漆に近く、慣れて爛れなくなることもある。
死神・霊体・あやかしには効くのだが、人間にはただの水のため、万が一水鉄砲を当ててしまっても安全だ。

「はい、クリスタルウォーターのボトルも」

南の両手はあかぎれのように腫れていた。



稲毛駅西口近くにある天然石ショップ「エリュシオン」で、雨読の名付け親の晴子(はるこ)はフローライトのペンダントを作ってもらっていた。

「東さんはストレスが減るって言ってたけど、本当かな…」

晴子は心配そうに店主の指先を見つめていた。
本当は東と天然石を選ぶ約束だったが、東はまだ来ないし、外は天気予報に反して冷たい雨が降っていた。そのため店の表では耐えられなかったため、先に中で雨宿りしていたのだ。

完成したペンダントを、店内に飾ってある大きな紫水晶で浄化してる時に、東がやって来た。
ガランガランとドアに付けたベルが鳴る。

「東さん遅いよ!もうペンダント完成しちゃったよ!」
「ごめんね、ちょっとお腹壊しちゃって……」
「そっかあ…大丈夫?喫茶店のケーキセット奢ってくれたら許してもいいよ?」

まだ2回しか会ってないのに、メッセージアプリのおかげで親しくなれた様子の晴子と東。小さなコンビニの上にある「桜庭コーヒー」でホットアップルパイを頼むことにした。
少し贅沢な雰囲気の漂う老舗の喫茶店からは、少しタバコの匂いがした。

あつあつのアップルパイに添えられたバニラアイスが溶けはじめた頃、東は要件を切り出した。

「あのね、晴子ちゃん。雨の日だけでいいから、僕の仕事を手伝って欲しいんだ」
「え…」
「駅の残留思念を消したり、霊の皆様を僕と南船橋まで案内してほしいんだ。もちろん報酬は用意するし、帰りは車で自宅まで送ってあげるよ」

晴子はにわかには信じられない提案に目を白黒させて驚いていた。

「信用できないのも無理ないかあ……あ。そうだ。雨読くんを君だけの守護霊にしてあげるよ。二人でよく相談して決めて」
「どういうこと?」
「晴子さんに準備してもらった天然石に雨読くんを宿らせることができるんだ…さっきのペンダントを貸してもらえるかな」

晴子は、カバンの中から買ったばかりのペンダントを取り出した。
東はそれを受け取ると、黒い手袋を嵌めたまま手の上に載せ、小さな小瓶に入った液体……クリスタルウォーターをかけた(廃液は灰皿を受け皿にした)。ジュ、と少し焦げ臭い匂いがしたが、平然とした様子で晴子にそのペンダントトップを握らせた。

「雨読くんに宿ってもらえるように交渉して」

ニコリと笑う東。晴子は渋々、心の中で囁いた。

(……雨読くん、私と一緒にいてください。このペンダントに宿って一緒にいて下さい)

ーーいいよ、晴子さん。僕と一緒に悪霊を狩ってくれるならね。

(え?!)

割とあっさりと、雨読はフローライトに宿った。が、それを条件に東の仕事を手伝うことになってしまった。

「ありがとう雨読くん!さあ、西千葉に行こう晴子ちゃん!」
「ええー?!!とりあえずアップルパイ食べていいですか?!」

晴子は動揺してしまい、食べたいと言ったにもかかわらずアップルパイの味を楽しむどころじゃなくなった。

2021.10.7-23:34


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