悪食の趣味は色の趣味

僕はHankaの岬に立っていた。
黒蝶岬という、蝶に乗った死者の魂がたどりつく岬だ。
真っ黒なカラスが襲ってくるかのように、何万の蝶が白い空の中を飛ぶ。
通称・モノクロスカイ現象だ。

岬までは南船橋から特急で3時間で着く。
まず、死者たちは波止場の交流会館で旅の疲れをいやすのだ。

そして、魂を運び終えたアゲハチョウたちを虫かごに集め、僕はまた電車に乗る。

外は凍てつくように寒くて、電車の椅子は温かくて眠気を誘う。
蝶が舞う窓の外を眺めながらうとうととしていたら、
いつのまにか眠ってしまっていたらしく、上町まで行ってしまった。

どうせだから、と、トピア嬢へのお土産を買うことにした。
虫をモデルにした「悪食パライソ」という菓子店に行き、何匹か適当にチョイスした。
見た目こそ悪食だが、中央街では服のボタンやちいさな食器などにモチーフを変えて菓子を作っており、
精巧さと繊細な味に毎日長蛇の行列ができるほどだ。
上町の悪食パライソは、見た目がとんでもないので並ぶことはないが……。
(※上町は日本でいう京都あたりによく似ていて、高級なレストランや菓子屋が多く並んでいる)

僕は予算を告げ、適当に見繕ってもらった。

「東様、お久しぶりです。」と、店長が飴を持ってきてくれた。白い手袋は漆の食器を良く見せる。
しかしその皿に乗っていたのは、いわゆるGをモデルにしたテカテカしたとっておきの飴だ。
ちゃんと見ないと本物と間違えてしまいそうなほど……だ。

「これ飴だよね?」と僕が確認すると、店長は僕の口元にその飴を持ってきた。コーヒーのいい香り。
本当に悪趣味だな、と笑う。
僕は口に含み、バリバリと食べた。コーヒーとミルクの羽がまろやかに溶け出しておいしい。
触覚や足が引っ掛かるのかなと思いきや、そんなことはなくて、すぐに溶けてカカオの味がした。

「いかがでしょうか」と店長は言う。
「いかがでしょうかじゃねえよ。おいしいですw」と僕は笑い、店長とゲラゲラ笑った。
どうせなのでお土産の中に1つ無造作に入れてほしいと頼んだ。


奇憚飴の館へと向かうため、僕はまた電車に乗った。中央街真ん中駅で乗換があり少々面倒だ。
最近の観光客は買い物目当てが多いのか、ガイドの烏やドールもつけずに買い物に奔走している。
夜は「外からの者」は魑魅魍魎に命を狙われるので、気を付けてほしいと思う。

 *

「トピア様。只今蝶をお持ちしました。」

植物園の真ん中で、僕は大きな虫かごを置いた。

「遅かったじゃない。どうしたの?迷子になった?」と、妖艶に笑うトピア嬢。
西洋コルセット風の洋服に長いパニエがついた謎の衣装を身にまとっていた。

「そんなところです」と僕は笑い、お土産の飴を見せた。

「あら!いいのかしら。悪食パライソの飴、大好きなのよね!」

と、真っ先にGをモチーフにした飴を口に含み、「おいしい」と微笑むものだから、大人の女の度胸ってすごいなと僕は思った。


トピア嬢は、体が人形の元人間・花を寄生させた娘たちが、音楽と飴をお客様に楽しませるための館として奇憚飴の館を作った。
本番なしの娼館のようなもので、従業員もお客さんも変なのばっかりだったから、相当苦労したそうだ。
さながら●谷デッドボールのような状況だったらしいが、今では落ち着いた旅館になっている。


「最初はさ、男から搾り取るために館を作ろうと思ったんだけど、
 知り合いの天平(てんぺい)ってのが植物園にしたいとか言ってどうなるかと思ったわよ」

天平という人は、ヤーパンの北国にある小さな村の長で、
ある流行病から村人を守るために、植物を寄生させる秘術で多くの人を救ったらしい。
今では遊女として売られる少女たちを守るために、花を植えて娼館ではなく見世物小屋に行けるようにしたそうだ。
花が生えた女など、おそろしくて誰も抱かないだろうから。


「ところでこのアゲハチョウ、何に使うんです?」
「盆栽娘さんたちと遊びたいオジサマたちが、蜜を探られる少女たちの恥じらいを眺めたいんだって」

と、トピア嬢はさらっと言ってのけるが、結構とんでもない行為だと思う。

「東さん、この幼虫チョコレートおいしいわよ。あなたもいかが?」
「ありがとうございます。でも僕はお店で飴を試食させていただいたのでまたの機会に」
「あら。気を遣わなくてもいいのよ?」

じゃあお言葉に甘えて、と僕は幼虫に似たホワイトチョコレートを1ついただいた。
たまには悪食も悪くないものだ。


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