東と西

それはまだ僕が冥府公務員になりたての頃の話だ。

僕はトイレに籠って嘔吐していた。
それは黒くべとついて、しかし、中にはキラキラ光る粒が混ざっていた。

「苦しい?」

僕の背後には、いつのまにか西さんが立っていた。
西さんは麦茶を差し出すと、僕はそれを一気に飲み、また吐いた。


冥府公務員たちは、盟約の時に人ならざる者にならなければならない。
不思議な酒を一口飲み、人以上の力を手に入れて業を背負う。
(それはザイエ一家が子供に毒を飲ませ、才能を手に入れる姿に似ているが、非なるものだ。)

「どうして、あなたは、この病に、侵され、ない、ん、ですか?」

西さんの淹れたハーブティーを飲みながら、僕は西さんに問いかけた。

「ただ慣れてるだけ。それだけだよ。」

なんでもないことのように、西さんは答えた。
甘い粉薬をまぶした水あめを僕に差し出すと、冷たい紅茶に粉薬を入れて飲み干す。
水あめは、ちょっと漢方の匂いがしたけど、甘くておいしかった。

「私と北さんは、白い蝶や昼の雨から、東さんと南さんは、黒い蝶や夜の雨から
 薬を作ったり、蝶を生み出したりする。そのためにイロという力を使うんですよ。」

そういうと、西さんは掌から蝶を作り出した。
白い蝶は、はたはたと羽ばたき、西さんの手のひらから飛び立った。

「この国ではイロという力の概念があってね、溜りすぎると発狂して、足りなくなると死に至る。
 盟約の時に飲むお酒は、その力を操るための力を得るための薬なんですよ。
 私も最初は苦労したけど、慣れればうまく操れるようになるよ。」

西さんが生み出した蝶は僕の胸にとまると、一瞬で鮮やかな蝶になり、
ぽとりと床に落ちて動かなくなった。

「指を貸してね。」

西さんはそう言って、僕の左手を手に取ると、ナイフで人差し指の先を傷つけた。
そして、血がにじむ指先を口元へ持っていき、軽く吸う。
すると、僕の黒髪は少し茶色ががった髪に“色が薄まり”、肌も大福のように白くなった。
対して、西さんは反対の手から虹色の蝶をぼたりぼたりと何匹も垂れ流した。

「これでもう平気。この蝶は薬の材料に持って帰るね。」

そういうと、西さんは席を立ち、僕の部屋から出て行った。

僕は床に落ちた蝶を拾うと、紙に包んで、日記の間に挟んだ。



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