シュークリーム・キス

真っ白で寒い部屋。咳をする声が小さく響く。
先輩は、風邪をこじらせて横になっていた。
食欲もなく、スポーツドリンクと風邪薬だけ飲み、毛布の中から窓の外を眺めていた。

(今年もやってしまった。寒いのに海に行ったからかな。)

結露した窓は先輩の代わりに涙を流していた。


高熱でうとうとしていたら、玄関からドアチャイムの音がした。

「先輩ー。聴こえるー?俺だよー相棒ー。開けて。」

高熱とさみしさで震えていた先輩には嬉しい来客だった。

 *

「LINE見てびっくりしたよ。熱ならそうだって言ってくれたらいいのに。」

相棒はインスタントのカフェオレを淹れながら、先輩の方を見ていた。

「だって相棒に移したくなかったんだもん。」
「いいじゃん。お前が俺に移したら治りそうだし。」
「だめだよ…。」

先輩は真っ赤な顔でコンビニおでんの大根を食べながら、相棒に「ありがとう」と呟いた。

「じゃあ俺はシュークリームいただきまーす」
「あ、ずるい」

相棒はカフェオレとシュークリームを先輩の目の前で食べ始めた。

「うまいうまい。流石コンビニスイーツ。……あれ?先輩たべたいの?これ1コしかないからあげないよ」
「いいなーいいなー。君ぜいたくー。」

ニヤニヤしながらシュークリームを食べる相棒。
半分ほど食べたところで、先輩に囁いた。

「目を閉じて。抵抗しなかったらシュークリームあげるよ」
「本当?」
「ほ・ん・と・だ・よ!」

先輩は目を閉じた。相棒はシュークリームを一口齧り、先輩に口移しで食べさせた。
とろりとしたものが甘く、先輩の口いっぱいに広がった。
先輩はしばらく不満そうな顔でもぐもぐと咀嚼していた。そして呑みこみ、目を開け、一言。

「そんなこったろうと思ったよ。ていうか半分もらうね。約束だからね。」
「えー。」
「えーじゃない!だいたいこういうのは夜に静かにやるもんだし、風邪は移しても治らないよ?」
「じゃあせめて、」

隣で眠らせて、と相棒は言う。
先輩は相棒を布団に招き入れ、抱きついて頬にキスをした。
そして、ぎゅっと抱きしめた。

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若いころ、クリスマスにおでんで寂しく過ごしたことがあります。今年はシュークリーム二個の予定です。


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