きみがしんだら
許してあげない






今日も今日とて、書類山積みのデスクで事務作業をこなしていく。
お昼過ぎになると、一年生を連れて現場に向かった伊地知くんから連絡があった。
電話の向こうの伊地知くんは焦った様子で、特級に近い呪霊が出たので助けてに来てほしいと言い、それを聞いた私は急いで車に飛び乗り、現場へと向かった。


それが2時間前。




一年生はみんな、少々傷を負っていたが全員無事だった。呪霊も何とか倒すことができた…が、一番の負傷者は私だ、左肩から胸の下辺りまでざっくりとやられてしまった。



みんなで硝子の所へ行き、私は止血が出来ているので後でいい、と一年生から治療をしてもらう。
全員無事だし、呪霊は倒す事が出来たのに、何故か悠仁と恵の顔が真っ青である。
伊地知くんに至っては、汗をかきながら何か小さな声でブツブツと呟いていて落ち着きがない。





「…悠仁、そんなに傷は深くなさそうだけど…痛い?大丈夫?」
「いや、傷はそんな痛くねえ、けど…」
「名前、こいつらは別の恐怖に怯えてんのよ」
「…別の恐怖?あ、呪霊怖かった?特級程じゃ無かったけど、私でギリギリだったからね〜間に合って良かった!」
「「いやそうだけどそうじゃなくて」」



悠仁と恵の声が揃う。なら何だと言うのだ。


「五条先生よ」突然、野薔薇が言い放った。



「名前さんに、深い傷を負わせちゃったから…」


ごめんなさい、助けてくれてありがとう…と野薔薇は私に頭を下げた。その後ろで「ありがとうございます」と、悠仁と恵も頭を下げていた。





「……私は先生でもあり、一応、一級呪術師でもあるからね。みんなを守る事が当たり前なんだよ」


だから謝らないで、と、泣くのを我慢する野薔薇を右手で抱き寄せ、頭を撫でる。
野薔薇は私の背中に手を回し、嗚咽を我慢するように啜り泣く。


「…悟もそれを解ってるから大丈夫だよ。…伊地知くんもね」



ビクッ!と反応した伊地知くんを見て「大丈夫だから」と笑う。
悠仁は「俺、五条先生に殺されない?ほんとに?」と、青褪めた顔で言うので、声を出して笑ってしまった。






硝子は、治療を終えた一年生と伊地知くんを「はいはい、名前は服脱がないと治療出来ないからね〜とっとと出てけ〜」と、部屋から追い出した。

野薔薇も、もう大丈夫だろう。ああいうフォローは恵が得意だろうし、後は任せても良さそうだ。





「ほら、上脱いで」
「ん、……硝子、ごめん」
「それは五条に言いな。………うわ、よく我慢してたねあんた。これ、傷残るかも……結構かかるよ?」
「うん、すいません…お願いします」
「ま、任しとけ」


そう言うと硝子は治療を始めていく。私は黙ってそれを見ながら考える。

………ああ、悟になんて言おう。一年生にはああ言ったし、事実なんだけど……悲しむだろうなあ。私が傷を負う度に、悟は自身が傷を受けたように悲しむのだ。ダメージが大きいのはいつも悟。だから毎回言う事を躊躇ってしまう。



「…五条には言ったの?」
「…まだ。伊地知くんには、私から言うから黙っててって伝えたけど」
「そ。ま、一度や二度の経験じゃないにしろ、慣れる事じゃないからね」
「うん………あ〜どうしよ〜」


硝子〜!と縋るように言うと、なるようになる、と切り離された。ですよね〜。




長い治療を終え、着ることが出来なくなったシャツの代わりに、硝子から渡された服を着る。塗り薬と換えの包帯をもらい、「一週間後にまた傷を診るから、それまでは毎晩塗り薬を使って」との事だった。


重い腰を上げ、硝子にお礼を言って部屋から出る。悟の事は後回しにして、仕事をしようと事務所へと向かった。








「…名前、傷見せて」


事務所へ入ると、悟が私の席に座っていた。大方、脅して伊地知くんからか、報告を受けた学長から聞いたんだろう。全てを知っている様子の悟にそう言われ、私は黙って悟に近付いた。



「……悟」
「うん、ここに来る前にあいつらの所には行ってきたよ。みんな元気そうだった。名前が助けてくれたんでしょ?」
「ん」
「…うわ、ざっくりいかれたね。傷残るって?」
「うん、ごめん……」
「ん、…おいで」


悟の上に乗るようにして、そっと抱き付く。
悟は怪我をしていない右側の肩に頭を乗せ「…心配した」と呟いた。



「…ごめんなさい」
「だめ、許さない」
「今日、お風呂上がったらこれ塗って」
「塗る。包帯も僕が巻く。あと治るまでお風呂も一緒に入る。けど許さないからね」
「うん、悟…」
「ん?」
「…ごめん、ありがと」
「………名前に甘い自分が、たまに嫌になるよ」



顔を上げ、そう言って困った様に笑った悟にそっと抱きついた。






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