それから約1週間後の早朝、私は二年生三人の為にお弁当を作ろうと、エプロンを付け腕捲りをして意気込んでいた。
悟が出張で不在の時を狙ったため、今日に至ったのだ。悟にバレると邪魔されるのが目に見えている。悟の事をしっかりと理解しているのか、二年生トリオはすぐに了承してくれた。
豪勢に作るならお重が良い。こうなったら運動会かというぐらいのやつを作ろう。
1段目にはツナマヨとこんぶのおにぎり、いなり寿司を作って詰める。
2段目はおかず。とりの唐揚げに卵焼き、ウインナーに、キャベツ入りのふわふわメンチカツにはソースも付ける、うずらの卵を入れたミニ煮込みハンバーグ、エビとブロッコリーのマヨ和えをカップに小分けして入れる。
3段目はパンだ。ロールパンにウインナー、ハムとスクランブルエッグ、チーズに生ハム、と3種類のサンドイッチを作り、一つ一つラップに包む。
昨晩、お弁当の下準備していたので、ほとんどが詰め込む作業だけで済み、思ったよりも早く完成した。
お弁当ともう一つ、昨晩作ったシフォンケーキとガトーショコラを食べやすいように切り分け、可愛くラッピングしていく。
出来上がったお重弁当と、綺麗にラッピングしたケーキを見てテンションが上がり、とりあえずスマホで写真を撮る。
これで二年生トリオも満足するはずだ!と、ひとり心の中で自画自賛した。
ーーー
お重弁当と2種類のケーキ、紙コップに紙皿に割り箸、大きな水筒に入れた温かい緑茶、一応レジャーシートも一緒に大きなバッグに詰め込んで高専へと向かう。
いつもよりも異常に大きな荷物を持った私を見た伊地知くんだったが、何も触れてこないので頭に?が浮かんだが、優しいから触れないでくれてるのかな〜と思い、お昼まで仕事をこなす。
「私、お昼から外回りですので…」と言う伊地知くんに、シフォンケーキとガトーショコラが1ピースずつ入った袋を渡しながら「食後に食べて。いつもありがとう」と笑顔で伝えると、「良心が痛む……!……はっ!ほんとすいません!有難く頂きます…!」と謎の返事をもらった。
(面倒事に巻き込まれないように、色々知りながらも流してすいません…!主に五条さんのせいですが…!)と伊地知くんが罪悪感に苛まれているとは知らず、
なんで良心が痛むことがあるんだろ?手作りが久しぶりなのかな?と思いながら、肩に担ぐようにして大きな荷物を持った。
ーーー
真希ちゃんにスマホで場所を伝え、三人でここに来るように指示する。
陽当たりが良い立派な大木の下にレジャーシートを敷き、二年生ズが来る前に、と持ってきた物を出して準備をすると、気分はもはや花見である。
因みにこの大木は、学生時代に悟がお昼寝という名のサボりに使っていた場所である。みんなで昼食をとるには最適だ。
「よっ!やっとこの日が来たな〜」と真希ちゃんが笑って言いながら二年生トリオがやって来た。
みんなは用意されたものを見て、
「ええっ!?すごくねえか!?これ名前が全部作ってくれたのかよ!」
「ツナマヨッ!」
「うわ…すご、まじで美味そうなんだけど」
と、三人三様に良いリアクションをしてくれたので、私も嬉しくなった。
「とりあえず記念撮影だろ!」と言う真希ちゃんのスマホで、食べる前にみんなで写真も撮った。
紙皿に好きなものを取り、「うま〜!」「名前、ありがとな」「しゃけしゃけ!」と、どんどん食べてくれる二年生ズが可愛くて堪らない。
「真希ちゃん、さっきの写メ、後で送ってね」
「俺も俺も〜」
「しゃけ〜」
「おっけ、今送っとくわ」
もらった写真には、笑顔の四人に囲まれてお重とケーキが並んでいる。これ待受にしとこ、と私はスマホを操作し設定する。
あっという間に無くなったお重弁当とケーキ達に、昨日今日と頑張って作った甲斐があったなぁ、とホッと息を吐く。
「……よし、そろそろいいか」
「…すじこ?」
「おっ、なんだ?」
「ん?どしたの?」
真希ちゃんがニヤニヤしながら自身のスマホを操作する。
「多分すぐだぞ」
と言う真希ちゃんに、三人で首を傾げる。
…何がだろう。と、思った瞬間、目の前に悟が現れた。何故か愕然とした表情だ。
「びっ、…くり、したぁ。悟…」
「ッ!…だぁ〜っ、はっはっはっは!!!!!」
「っ、うける…!五条…!あっははは!!」
「……っ!ひっ、……!」
二年生トリオは急に現れた悟を指刺して爆笑している。
「…僕のは?」
「……え?」
なに?と聞き返す。悟の声が小さくて聞き取れなかった。
「……狡い!!!!!名前、僕のは!?」
「あ、えっ?ああ、お弁当?」
「なんで?てか何一つ残ってない!お重は!?ケーキも!」
「あ、うん、みんなが食べてくれたから…」
ぶっす〜〜〜と膨れっ面の悟に二年生ズは呼吸を整えながら言う。
「はぁ〜しんどい…笑いすぎ……」
「悟ゥゥウ!今までの俺達の恨み!思い知ったかァアッ!」
「ひっ…!ッ………!」
棘くんは笑いのツボからまだ戻ってこれないらしい。
「………お前らね、大人気なくない?」
「誰が誰に言ってんだよ!」
「俺達まだ子どもだし!」
「っ、しゃけしゃけ!」
パンダくんが子どもかは謎だが、なるほど、と一人納得した。悟への今までの仕返しだったのだ、真希ちゃんは先程みんなで撮った写メを悟に送っていたらしい。
「ひど〜い、名前、聞いた?こいつらひどくない?」
「………う、うう〜ん」
「え、僕の味方いないの?」
「「いねーよ!!!」」「おかかっ!」
あースッキリした〜まじで名前に感謝だわ〜ホントありがとな〜と言いながら、不穏な空気を出す悟と不安でいっぱいな私を置いて三人は去っていった。
え?悟は?みんな引き取ってくれないの?嘘でしょ?呼んだの真希ちゃんだよね?
「…名前」
「………は、はい…」
「今日は寝かせてあげられないかも」
「えっ!?」
おかしいでしょ!そもそも悟のせいでこうなったのに!と不満を口にする前に、食べられるようにして悟に唇を塞がれた。