忘れられた子守唄 (8/21)
その時、扉が開かれ誰かが部屋に入ってきた。



「兄貴、もう直ぐ集合時間…………って、起きてる」



そう言って入ってきたのは義弟のフィリアムだった。こいつは例の家出馬鹿女のレプリカなのだが、何故か性別が反転してしまったらしい。
だからなのかはわからないが、被験者に比べてかなり大人しい性格となってしまった。全く持ってあの女とは似ても似つかない。

……いや、訂正。



「お前な、オレが朝早く起きてちゃ悪いってのかよ」

「あ、いやそうじゃなくて。……ただ、兄貴にしては珍しいなと」



はいはい、どーせお寝坊さんですよ。伊達に地球で遅刻サボリの常習犯だなんて言われてない……って、大見栄切って言う事でもないが。

と言うか、こいつ今さり気なく「兄貴にしては」を強調しやがった。悪気があってやってる訳じゃないらしいが、こう言う所は似てるかも知れない。



「……ま、別に良いけどよ。それよか、オレを起こしに来たって事は」

「うん、俺も今回の任務に同行する事になった」



第三師団の補佐だけど、と続けられた言葉にうげっとなった。第三師団と言えばアリエッタが纏めている部隊だ。

今回の任務はザオ砂漠に巣食う盗賊の討伐だ。昨日の様子からリグレット率いる第四師団が行く事はわかっていたが、まさか第三師団もとは……。まだ昨日のトラブルから一日だ。何となく、気怠くなる。



「先に第三師団と俺で敵のアジトに攻め行って、第四師団と兄貴は敵の退路を塞ぎ、逃げ出した者達を討つ、らしい」

「あー成る程な」



第三師団は殆どが魔物部隊で構成されているから、襲撃には持って来いだろう。



「てー事は今回は暗殺じゃないんだな」

「まぁ、確かに違うけど、罠仕掛けたりするだろうし、それも兄貴なら専売特許だろ?」

「まあな」



どうやら今回はそれ程大変ではなさそうで安心した。襲撃メインだったら、流石に今の状態ではキツイだろう。それにリグレットもいるようだし、大丈夫だろう……多分。



「ンじゃあ準備すっから、お前は先行ってろや」

「わかった」



頷いて部屋を後にしたフィリアムを見送り、オレは任務の準備を始めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「作戦の再確認をする」



ザオ砂漠……と言っても殆どケセドニアに近く、木々がそれなりにある場所の敵のアジトのすぐ側まで来ていた。勿論、わざわざ相手に見付かるような事はせず、皆隠れている。
そんな中でリグレットはいつもより声を抑えるようにして皆に告げた。



「アリエッタ率いる第三師団で先行し、奇襲を掛ける。その補佐にフィリアムが行きなさい」



その言葉にフィリアムが頷き、アリエッタが魔物達に指示を出す。そして何故か目が合う(ような気がした)と、腐貞腐れたようにそっぽを向かれた……と、言っても視界がぼやけていた為に本当にそうだったかどうかは確認出来なかったが、何だかそれが無性に苛ついた。

……あのガキ舐めやがって。



「グレイ、聞いているのか!」

「おー聞いてる聞いてる」



後からオレらが出口塞いで逃げ出そうとする奴らを討ち取れば良いんだろ、と言うとリグレットは「そうだ」と頷いた。



「ただ、万が一大人数が来たり、相手の首領が来たりしたらこの地やアジトの構造に詳しい分こちらが不利になる恐れがあるし、何よりも首領に逃げられかねない。だからグレイと私、そして数名の兵士で中に入り罠を仕掛ける」

「そしてあわよくば首領の首を取れ、と。そんな感じか?」

「そうだ。行けそうか?」



そう問われニヤリと笑い、「大丈夫だ」と頷いた。それを確認するとリグレットは再び皆を振り返り、作戦開始の合図をした。

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