忘れられた子守唄 (9/21)

「いきます!!」



アリエッタの掛け声と共に魔物……ライガの集団が駆け出す。今回は地形の関係かグリフィンは連れていないようだ。

アリエッタ達が行ってから直ぐにこちらも動き出す。とにかく先ずは一番大きな出入り口を塞ぐ。粘着性の高い丈夫な糸を蜘蛛の巣のように張り巡らせる。日差しが丁度中に入り込むようになっているから、余程冷静でなければ糸は見えないだろう。



「よし」

「この罠、隠し出口には」



リグレットにそう言われ首を横に振る。



「いや、この手の罠は入口が大きいほど効果が出るんだ。裏口担当の奴らにはもっと別の物を渡しておいた」



そちらはディストの手製なのだが、なんでも電気壁を作り出す物なのだとか。ただ規模が小さい為、あまり広い所で使っても意味がない。



「成る程、だからそれを向こうにしたのね」

「そうそう、何事も効率良くいかねーと。後が面倒臭ェからな」



ケラケラと笑いながらそう言うと何故か溜め息を吐かれた。失礼なこっちゃ。



「まぁ、良い。そこで通路が上下で分かれている。私が上に行くからお前は……」

「下、な。わーったよ」


頷き、いくつかの小爆弾を手に取ると一気に階段を下っていった。



(……思った以上に暗いな)



余程ライガ達が暴れ回ったのか、灯り用の譜石が壊され辺りは真っ暗になっていた。いつもならこの位何ともないが、やはり少し……いやかなり見え辛い。時々足に何か当たるが、感触的に恐らく人だったモノだろうと思う。



(当然っちゃあ、当然だけど。血の匂いが半端ねェ)



人間、面白いもので五感の一部が不調になると他の箇所が鋭敏になるらしい。現に今、目が利かない代わりにいつも以上に鼻や耳がよく利いているのか、遠くでライガの吼える声や人の断末魔までよく聞こえるし、辺りの血や死体の匂いが鼻につく。

そんな中で次々罠を仕掛けていく。前のような時限爆弾ではなく、一定の振動を加える事によって爆発する、所謂"地雷"と呼ばれるモノだ。

何度も言うが今回は目が殆ど利かない。だから譜業銃や投げナイフ、苦内が使えない。だから今のオレの武器は爆弾がメインだが、一応接近戦用のダガーもある。これは出来れば使わない事を祈りたい。



「は、ひいっ! 来るなっ!!」



ふとそんな声が聞こえ、地雷から離れ物影に隠れる。するとライガに追われている男が走ってきた。
しかしライガは直ぐに異変に気付いたのか、突然足を止めた。それを好機と取ったらしい男は安堵の表情を浮かべ、隠れているオレに気付く事なく通り過ぎていった。

そしてその直後、地雷が爆発した。



「……………」



悲鳴など、爆発の轟音に飲まれてしまった。そのまま"男だったモノ"を見る事なく物影から出ると、ライガにすり寄られた。

動物は別に嫌いじゃない。それにアリエッタには嫌われているが、何故かそのオトモダチには好かれているようで、よくこうして寄ってくる事がある。
よく止まった、と誉める意味を込めてライガを撫でると気持ち良さそうに目を細めた……が、直ぐに何かに気付き己の来た道を振り返った。



「どうした?」



と、聞きながらも耳を澄ましてみると、幾つかの足音が近付いてきているのに気が付いた。



「ッ、……クソ! しつけぇんだよ、クソガキが!!」

「逃がさない、です」



どうやらアリエッタと盗賊の一人のようだ。しかし二人のやり取りと、アリエッタ自らが追い掛けている事からして、あの盗賊が敵の首領である事は直ぐにわかった。

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