忘れられた子守唄 (2/21)
暗殺……と言う事は当然人殺しをする。影に忍び一瞬で標的をあの世に葬る。しかも表立って戦うのと違い、己の身体に傷が付くという事は滅多にない。これほど残忍でアクドイ事はないだろう。

だからなのか何なのか、一番最初こそ人の生命に手を掛けた時は何とも言い知れぬ感情を抱きもした物だが、それ以降は至って普通に躊躇なく人を殺められるようになった。
それは同じ人としてどうなのだろうとも思ったが、死んでいった奴らなんて自分には何の関係もない者達ばかりで、そんな考えも直ぐに赤に飲まれていった。

……さて、えらく長い前置きとなったが、そんなオレ…グレイ・グラネスには幼馴染みの馬鹿女は勿論、ヴァンでさえも知らないある秘密を抱えている。知っているのは因縁とも言えるそれはそれは長い付き合いとなる者しか知らない、秘密。

それが何かって? それはな…………









「グレイ!!」



バンッと、壊れるんじゃないかと言うくらいに勢い良く扉を開け放った金髪の女はその鋭い目を更に吊り上げて部屋に入ってくると、ズカズカと人の寝ているベッドに近付き容赦なく布団を剥ぎ取った。因みに今はウンディーネデーカン。春とは言え、まだまだ朝方は寒い。



「う………ンだよ、寒ィな」



寒さに身を縮こませながら近くの時計を弄(まさぐ)っていると、金髪の女の更なる怒声が聞こえた。



「今何時だと思っている!? 任務に行く者達はとうに集まっていると言うのにお前と言う奴は!!」

「任務……?」



何のこっちゃと寝癖髪の頭を掻いていると、金髪の女はスッと一枚の紙を差し出してきた。



「今日はザオ砂漠で盗賊の討伐、だったでしょう? 恐らく奴らは地下の遺跡を根城にしている筈だ。暗がりでの行動こそお前の腕の見せ………」



そこまで言うと唐突に金髪の女は言葉を止め「グレイ」と呼ぶ。



「そんなに食い入るように見なくても良いのではないかしら?」

「なぁ、リグレット」



紙に思い切り顔を近付け、目を細めながら見ている様子を不思議がるリグレットの言葉を遮り、オレは見ていた紙を返しながら言った。



「その任務、日付が明日になってンぞ」



そう言うとリグレットは「何?」と言って紙に書かれている内容を読み返した。



「……………あ」

「あとついでにもう一つ言うとな、今日オレは休みだ」



しまったと言う顔をする彼女に更に追い打ちをかけると、リグレットは苦渋の表情を浮かべ「すまない」と言って部屋を出て行った。その背を見つめ、溜め息一つ。



「はぁ……ったく、朝っぱらから騒々しいっての。目が覚めちまったじゃねーか」



久々の休みだってのに。

そう呟きながら時計の隣にある小さなケースを手に取り、中身を出して両目に付けた。所謂、『コンタクトレンズ』と言う物だ。















……そう、オレの秘密。それは非情に"目が悪い事"、である。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







丸一日休みの日ってのはいつも碌な事がない気がするのは気のせいだろうか。最後に休暇を取ったのは確か二週間くらい前だが、その時も結局まともに休めなかったりする。
何ヶ月か前までは主にその原因と言うのは、今はどこかに旅立った馬鹿女が齎(もたら)していたもので、そのオマケのようにチビガキらが非情に嬉しくない特典としてついてくる。

しかし最近ではそのチビガキらが中心となってオレの貴重な休暇を邪魔しに来るのだ。

今だってそうだ。腹が減ったが作るのが面倒臭いからと食堂に来て朝食を取るオレの横から箸が幾度となく伸ばされ大事なおかずが持っていかれている。

- ナノ -