忘れられた子守唄 (1/21)

子供って言うのはどうにも五月蝿い存在だ。直ぐ泣くし、怒るし、騒ぐしで我が儘放題好き勝手。大人がどんなに注意したって聞きやしない。
オマケに何にでも興味を持ちたがるし、時にはこっちが冷や汗を掻くようなコトを平気で行ったり話したりするンだ。


瞑らな瞳が可愛い?
小さくてフワフワしてる?
笑顔は天使で癒される?


……全く持って冗談じゃねーよ。瞑らな瞳って、ンな顔すれば全てがまかり通る訳じゃねーし。小さくてフワフワって、子供はやたらと人にくっつきたがるが、こっちからしてみれば邪魔以外の何でもない。況してや笑顔は天使とか……その顔で本日もどんなオソロシキ事をやってのけるのかを考えただけでゾッとするもんだ。天使ってより悪魔だよ。


そしてそんな悪魔が今、夢にまで出て来るもんだから、実に頭が痛い。……いや、夢だから痛いも何もないんだろうけど。

ただ、目の前にいるソイツは先程で挙げたような世間一般の"可愛らしさ"と言う物はない。だから当然瞑らな瞳なんてないし、フワフワってより寧ろ痩せてて(ガリガリとまではいかないが)固そうだ。コレの寝顔は……あんまり想像したくはないが、コレで天使とかほざかれた日には確実に自害する自信がある。

ソイツは鋭い目つきで目の前にあるモノを悉く破壊している。如何にもあの位の子供が好きそうな車や電車の玩具を踏み潰し、少なくともソイツよりは柔らかいであろう縫いぐるみを引き裂き、その辺に転がるサッカーボールをポケットに入れていたらしいダーツの矢で突き刺し破裂させた。
それでも治まらないのか、ソイツはイライラしたように息を荒くし、画面のフリーズで変な音が鳴り続けるゲーム機を、何だかオレでさえも無償にイラッとするアニメの流れるテレビへとぶち込んだ。

そんなこんなで暴れるだけ暴れるソイツを詰まらなさそうに眺めていると、不意に音楽が聞こえてきた。



♪────♪──



それはどこかの馬鹿娘が流していたモノとよく似ていたが、これは鎮魂歌【レクイエム】と言うよりは……もっとそう、心休まるような、暖かいモノに包まれるような……子守歌【ララバイ】のようだった。

するとどうだろう。今まで暴れていたソイツはピタリと動きを止めると、まるで糸の切れた人形のようにプツリと倒れて寝息を立て始めた。
それと同時に、オレの意識も段々と薄れ始めている事に気が付いた。夢の中なのに……と、複雑な気持ちになりながらも眠ってしまったソイツを見て、何だかとても安堵した……様な気がする。

気がする……だけだけどな。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「この世界は預言によって縛られている。未来を定められ、そうと遠くない将来に滅びるのだ」



私はその預言を覆す為にも愚かな者達を排除し、レプリカを使い世界を作り替えねばならない。



「ふーん、良いンじゃねーの。アンタが望なら力くらい貸してやるさ。"約束"さえ守ってくれりゃあな」



そう言って如何にもな世界改革思想を掲げる奴の謀策に条件付きで力を貸し始めてそれなりの月日が経った。

オレは神託の盾に入ってコネにコネを使いまくり(勿論、実力の部分もある)、奴の取り仕切る六神将とやらの補佐と言う地位を獲得した。これからの事に備え、力を付ける為にも沢山の任務に出た。

オレは昔から射撃遊びが得意だった。また子供っぽいが、隠れるのも気配を消すのも得意で、昔から"かくれんぼ"ではオレの右に出る者はいなかった。
それが相成ってか、必然的に暗殺の任務を任された。正直、ガキの頃の遊びがこんな所で活かされるとは思わなかっただろう。今思うと笑えてくる話だ。


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