「この前の任務でグレイが怪我したのは、目がよく見えなかったからなんだよね?」
「全てが全てそのせいって訳じゃねーけどな」
正直な所、油断もあった。目が見えてないのならば尚更、敵の生死の確認は怠ってはいけなかったのだ。これは軍部に所属する者にとっては基本中の基本である。
「だからあの怪我についてはお前のせいじゃね……」
「でも、原因を作ったのはアリエッタだから……ちゃんと謝らせて欲しい、です」
オレの言葉を無理矢理遮ると、アリエッタは意を決したように背筋を伸ばし、そして勢い良く頭を下げた。
「ごめんなさい!!」
「……………」
オレはそんなアリエッタにどう返したら良いかわからなかった。流石にここまで本気で謝っている相手をからかったり、馬鹿にしたりする程オレだって非道じゃない(多分)
そもそもオレ相手に謝るなんて事をする奴は滅多にいない。だからこう言う時、どうしたら良いのかがわからないのだ。我ながら情けない話だが。
「………あー……あのな」
あー、と頭を掻く。本気で困った。
(………って、あれ?)
この時、オレはある事に気が付いた。今まで散々アリエッタに感じていた筈の苛立ちが、ない。
アリエッタに謝られたからとも思ったが、そもそもアリエッタの何倍も相手に酷い事をしてきたのはこちらなのだ。実はと言うと彼女がオレに謝ると言うのは些か間違いと言うか何と言うか………。
いや、それよりもコレは一体どうした事なのだろう。
しかしその疑問は直ぐに己の中で答えが出てきた。
(ああ、そうか……)
目の前のこの少女は夢に出てきた子供に似ていたのだ。己の大切なモノを失い、立ち止まったまま動けずにいたあの子供とアリエッタが重なり、それに苛立っていたらしい。
そして今、それがないと言う事は……
「お前はお前なりに、動き出したんだな」
「え………なに?」
ポツリ呟いた為かよく聞こえなかったらしい……が、それはそれで良いのだろう。
「何でもねーよ。それより、良い加減コイツらなんとかしろって」
これじゃあベッドで寝れねーよ。
「? もう熱下がったの」
「まあな、流石にこんだけ張り切られちゃ治らン訳がねーって。
ありがとな」
意外とその言葉はスッと出てきた。
案外、動き出しているのはオレ自身もなのかも知れない。
「グレイ」
ふと名前を呼ばれ振り返ると、アリエッタが満面の笑顔を浮かべていた。
「どういたしまして、です!」
立ち止まり、凍り付いた時が動き出した。今はまだ無理かも知れないが、いつかはオレもこの少女のように大きな前進が出来たら良いと思う。
そうすれば、もうあの夢のように泣き叫ぶ事もなくなるのではないだろうか。そうだったら……良い。
(まぁ、その為にもまだまだ課題は多いンだけどよ)
ここ最近の夢や出来事は色々と気になる事が多かった。それらのついても調べなくてはならないだろう。
もしかしたら自分の知らない、でもとても大切な何か大きなコトがわかるかも知れない。大聖堂で会った男の言葉を信じるならばの話だが。
そう思いながらベッドの上に寝転がり、魔物のいなくなった部屋で散らかった羽や毛を片付けるアリエッタに目を向けた。
……多分、また何か壊すだろう。
そう半ば確信しながらも、オレは数分後のアリエッタに向けて言う言葉を考えた。
END