「まぁ、少しでもこの曲を知っていたって言うのは大きな収穫か。それに……」
この曲はお前にとって、とても大切なモノだからな。
彼の幼馴染みがあの自鳴琴の旋律を大切にするのと同じように、嘗ての彼がとてもとても、大切にしていた……子守歌。
トゥナロは一度ククッと笑うと、深い眠りにつくグレイの頭をガシガシと乱暴に撫でた。
「オレとこの曲が関係あるかって? そりゃあるさ。……でもな、オレは子守歌を紡ぐんじゃなくて」
夢想を奏でる者、なんだよ。
「オレ様はトゥナロ・カーディナル。次に会って今日の事を覚えていたら、夢《過去》ではなく真実《今》を教えてやるよ」
覚えていたらな、ともう一度繰り返すと踵を返してその場を後にした。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「……………」
さて、これはどうした事でしょう。
@まだ夢を見ている(それも悪夢)
A死刑宣告を受けている
B実は既に野生化していた
「……………」
取り敢えずAは勘弁願いたい。
因みに今どんな状況かと言うと、大聖堂にいた筈が何故か部屋に逆戻りしており、しかもベッドではなく何故かライガに寄りかかるようにして寝ていて、更には部屋一杯に溢れかえるような魔物達がいて何故かオレを囲んでいた。
何だコレは。一体何があってこうなった。何なんだ一体。そして何だコレは。何度でも言おう、
何だよコレは。
てか、先程大聖堂に行ったのは夢なのか現なのかすらよくわからない。ただわかるのは、先程よりは確実に頭がハッキリとしている事だ。
取り敢えず……
「───…………
アリエッタテメェ出て来やがれエエエエエッ!!」
これをやったであろう張本人を呼ぼう。
「あ、グレイ起きた」
ヒョッコリ、と言う表現がよく似合う参上の仕方で現れたアリエッタはトコトコとオレの近くに歩いてくると、手に持っていた濡れタオルを頭に乗せてきた。
「タオル、温まってたから取り替えたの」
「そうかそうか。それはよくわかったんだが、コレは一体何事デスカ?」
ちょいと事態が読み込めない。そう言って説明を求めるとアリエッタは小さく頷いた。
「グレイの部屋に行ったら誰もいなくて、お友達と一緒に捜してたの。グレイ、大聖堂で倒れてて……すごく熱かったから冷やしてた。
でも熱がある時は頭を冷やして身体を暖めるって聞いたから、お布団だけじゃダメだと思ったから……みんなで暖めてた」
「成る程な、つまりはあとちょっとでオレはお前らに圧迫死させられそうだった、と」
そりゃあぶなかったなぁ、なんて言えばいつもより丸い頬を膨らませて更に丸くしながら憤慨した。
「違うもん! アリエッタはただ……グレイを看病したかっただけ……なんです」
と、段々と声に自信がなくなっていき、次第に俯いていってしまった。
「やっぱり……アリエッタはグレイにとって迷惑にしかならないのかな」
「は?」
いきなり何を言い出すんだと呆けていると、アリエッタはそっとポケットにある物を取り出し、見せてきた。それはいつかの割れたコンタクトレンズだった。
「アニス達に聞いたの。コレがないと、グレイは目が見えないって」
「あー……」
やっぱりアニスは知っていたか、と内心頭垂れる。