男の子は愛おしそうに狂い叫ぶ子供に近付き、抱き付く。それに気付いた子供はハッとして男の子を見る。
しかし、
『────!!』
何かを叫びながらその男の子を引き剥がすと、思いっ切り押し飛ばした。吹き飛んだ男の子は床に叩きつけられ、悲しそうに子供を見上げ……泣いた。
『──────』
男の子は何かを言っていたが、やはり何を言っているのかはわからなかった。
『………ねぇ』
と、突然声を掛けられると同時に腹の辺りに違和感を感じた。視線を子供から己の腹を見ると、何かの刃物が生えていた。
(え………?)
と、思わず後ろを振り返れば先程子供に押し飛ばされた男の子。コイツの事は、よく知っている。
(────?)
そいつの名前を呼ぶが、その時に自分が今声を出せない事に気が付いた。
そいつはそんなオレに向けてニッコリと笑うと、言った。
『コワイ?』
ホントウの自分を見られるのが、シンジツを認めるのがコワイ?
『タノシイ?』
フコウな自分に酔うのが、ダイヨウのモノを愛でるのはタノシイ?
(違う……オレはそんなんじゃ……)
『チガクなんてないよ。あんたは──をミステ、ベツのモノでイツワリをツクッテいるじゃないか』
そう言ってそいつは笑う。違う、違うんだ──。オレはそんなつもりじゃないんだ。
『ニセモノがイツワリをツクル………これ程コッケイな事ってないよ』
ああ、ホントウに────なんて
『ダイッキライ』
♪───♪───
─♪────♪──
─♪────♪─………
またあの不思議な音楽だった。気が付けば刃物はなくなり、あの男の子も消えていた。
叫んでいた子供を見れば、泣き腫らしたような顔で再び独りで立っていた。
『コワイ……コワイ………コワイ………オレハ……ダレ?』
『誰でも良いんじゃないかな』
そんな声が聞こえ、今度は一人の少年が現れた。そいつは丁度今のオレと同じくらいで、オレともオレの幼馴染みの男とも違う黒い髪をしていた。ただ、顔だけはわからず、霧がかったかのようにぼやけていた。
子供は驚いたように少年を振り返った。
『何だよ……あんた……あんたに何がわかるんだよ!!』
そんな子供の言葉にフッと笑う気配を感じた。
『何だって良いんだ。俺が俺であるように、お前がお前である事は変わらないんだから……───』
そう言うとソイツは突然オレの方を向いた。
『だろ?』
……何だろうか。何だかそのおちゃらけた言い方に無性に腹が立つ。だがそれはアリエッタに感じたような苛立ちとは違い、どこか照れに近い。
(………煩ェよ)
そうそいつに向かって念を送ると、そいつはまた笑った。
『それで良い。お前はそうやってる方がらしいよ。そうやって"あいつら"と喧嘩して、笑って合って、楽しくやってろよ。だから………』
その為にも今は……おやすみ。
「……………」
先ず何か一言言うのなら、すごく頭がボーっとする。それはもう何も考えられないくらいに。まだ夢でも見ているのだろうか。それとも熱が上がったか、正直それすらもよくわからない。
(喉、乾いた……)
ふと、そんな事を思い付くとベッドから起き上がり、部屋を出ていた。