忘れられた子守唄 (16/21)
男の子は愛おしそうに狂い叫ぶ子供に近付き、抱き付く。それに気付いた子供はハッとして男の子を見る。

しかし、



『────!!』



何かを叫びながらその男の子を引き剥がすと、思いっ切り押し飛ばした。吹き飛んだ男の子は床に叩きつけられ、悲しそうに子供を見上げ……泣いた。



『──────』



男の子は何かを言っていたが、やはり何を言っているのかはわからなかった。



『………ねぇ』



と、突然声を掛けられると同時に腹の辺りに違和感を感じた。視線を子供から己の腹を見ると、何かの刃物が生えていた。



(え………?)



と、思わず後ろを振り返れば先程子供に押し飛ばされた男の子。コイツの事は、よく知っている。



(────?)



そいつの名前を呼ぶが、その時に自分が今声を出せない事に気が付いた。

そいつはそんなオレに向けてニッコリと笑うと、言った。



『コワイ?』



ホントウの自分を見られるのが、シンジツを認めるのがコワイ?



『タノシイ?』



フコウな自分に酔うのが、ダイヨウのモノを愛でるのはタノシイ?



(違う……オレはそんなんじゃ……)


『チガクなんてないよ。あんたは──をミステ、ベツのモノでイツワリをツクッテいるじゃないか』



そう言ってそいつは笑う。違う、違うんだ──。オレはそんなつもりじゃないんだ。



『ニセモノがイツワリをツクル………これ程コッケイな事ってないよ』



ああ、ホントウに────なんて



『ダイッキライ』























♪───♪───

 ─♪────♪──


─♪────♪─………



またあの不思議な音楽だった。気が付けば刃物はなくなり、あの男の子も消えていた。

叫んでいた子供を見れば、泣き腫らしたような顔で再び独りで立っていた。



『コワイ……コワイ………コワイ………オレハ……ダレ?』

『誰でも良いんじゃないかな』



そんな声が聞こえ、今度は一人の少年が現れた。そいつは丁度今のオレと同じくらいで、オレともオレの幼馴染みの男とも違う黒い髪をしていた。ただ、顔だけはわからず、霧がかったかのようにぼやけていた。

子供は驚いたように少年を振り返った。



『何だよ……あんた……あんたに何がわかるんだよ!!』


そんな子供の言葉にフッと笑う気配を感じた。



『何だって良いんだ。俺が俺であるように、お前がお前である事は変わらないんだから……───』



そう言うとソイツは突然オレの方を向いた。



『だろ?』



……何だろうか。何だかそのおちゃらけた言い方に無性に腹が立つ。だがそれはアリエッタに感じたような苛立ちとは違い、どこか照れに近い。



(………煩ェよ)



そうそいつに向かって念を送ると、そいつはまた笑った。



『それで良い。お前はそうやってる方がらしいよ。そうやって"あいつら"と喧嘩して、笑って合って、楽しくやってろよ。だから………』



その為にも今は……おやすみ。


















「……………」



先ず何か一言言うのなら、すごく頭がボーっとする。それはもう何も考えられないくらいに。まだ夢でも見ているのだろうか。それとも熱が上がったか、正直それすらもよくわからない。



(喉、乾いた……)



ふと、そんな事を思い付くとベッドから起き上がり、部屋を出ていた。

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