忘れられた子守唄 (15/21)
いつかグレイは言っていた。



『そう言う判断をせざるを得なかった奴の気持ちも、たまには考えたれや』



イオンが自分を解任した時の気持ち。あの時はわかっていたつもりでいた。でも、本当は今でもわかってなどいないのだ。それを知る為にはイオン本人に聞く外ない。

でも、今のままでは駄目だ。このままじゃ、今のままの自分では彼を支えるどころか、会う事すら難しい。



(変わりたい……そして、いつかイオン様に本当の事を聞いて………支えになりたい)



今、目の前にいるフィリアムのように幸せな気持ちにしてあげたい。

それから……



「あ、根く……アリエッタ! ここにいた!」

「ア、アニス!?」



突然勢い良く入ってきたのはアニス。いつもはアリエッタが彼女の所に行くのだが、彼女から自分の所に来るのはとても珍しい事だった。それはフィリアムにとっても同じ事だったのか、コーヒーを飲む体勢のまま目を白黒させていた。



「何でアニスがここに……イオン様は!?」

「もう、アンタはそればっかね。今日あたしはオフなの! ……じゃなくて、グレイが怪我したんだって?」



呆れながらもそう問われ、取り敢えず頷く。



「そう、だけど……」

「アンタ、この前グレイにめっちゃ怒られてたじゃん? その時に壊した物ってまだある?」

「? ここにあるよ」



なかなか要領を得ないアニスの問いに首を傾げつつ、手に持っていた割れたコンタクトレンズを見せると、「やっぱり」と溜め息を吐いた。



「アンタねぇ……それ、何だかわかる?」



わかんない、と首を横に振る。するとアリエッタの手の上を覗き込んでいたフィリアムはハッとした。



「それって、もしかしてコンタクトレンズか?」

「そうだよ。あの時まさかとは思ってたけど……」

「それじゃあ、兄貴は……」

「そう、なるんだろうね………全く、馬鹿と言うか何と言うか」

「それならそうと言ってくれれば良かったのに」

「なに? どう言う事?」



二人だけで納得したような顔で話を進められ、アリエッタは困惑する。それに気付いたフィリアムは「ごめん」と謝ると彼女に事情を説明をした。


そしてその説明を受けた時、アリエッタは己の時が止まったかのような感覚に陥ったのだった。

「それが兄貴の物なら、多分あの人……この前の任務は
















まともに目が見えない状態で行っていたって事になるんだよ」






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







目の前に子供がいた。それはこの間見た夢に出ていた子供と同じだ。だが、前に比べて随分と落ち着いている。



『……………』



子供は何も喋らず、ただボーっと立っていた。オレもただその子供の様子を何となく見ていた。

いつまで続くのだろうかと思っていると、ふと子供の側に一人の大人が現れた。それは黒髪の30代くらいの女性だった。どうやらあの子供の母親らしい。

子供は女性に気付くと心なしか嬉しそうに歩み寄った。女性は近付いてきた子供の目線に合わせるようにしゃがみ、その小さな肩に手を置くと子供の耳元にそっと囁いたのだった。



『ニセモノ』



と。

子供の両目は目一杯に開かれ、その表情を絶望の色に染める。女性は直ぐに崩れるようにして形を失い、消えていった。



『─────!! ──────!!』



子供は狂ったように叫んだ。しかし、何を言っているのがわからない。

すると今度は子供よりも更に小さな、別の男の子が現れた。

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