忘れられた子守唄 (12/21)

「グレイ……?」



と、呼ぶアリエッタの目が段々と見開かれていく。その視線を辿っていくと、刃物が見えた。ソレは何故かオレの身体から生えていて、自分で言うのも何だが、奇妙な光景だった。



「ただでは……死なねぇよ!!」



血を吐くようなそんな声が真後ろから囁かれ、漸く自分が後ろの男に刺されたのだと理解した。それと同時に刃が抜かれ、譜術でも放ったのか、足元が爆発した。



「グレイ!!」



再びアリエッタの悲鳴じみた叫び声が聞こえたが、倒れたオレにはそれに耳を貸す余裕が残ってはいなかった。



「………………」



まさか仕留め損ねていたとは……。やっぱり目が見えないと言うのは不便だな。

ああ、熱い……熱ィよ。ったく、何だってンだよ。ホントに………コイツらと関わると……碌、な……事がねー……よ、な。



「始まりの時を刻め……」



その時、オレが最後に視界に留めたのはアリエッタが人形を振り上げ、何やら大きな術を放とうとしている姿だった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇





「全く貴方は馬鹿ですか!?」

「煩ェ、テメェなんかに馬鹿とか言われたくねーんだよ」



アレから無事(?)に任務を終えたオレ達はダアトに帰ってきた。……と、言ってもオレが目覚めたのは本当につい先程なので、正直どの程度無事なのかは定かではない。

敵のアジトで腹に刃物貫通させて気絶して、目が覚めたら自分の部屋で目の前にディストがいて………そこから更に追い討ちのように馬鹿なんて言われるとか、最悪以外の何物でもない。



「最悪なのはこっちですよ! 任務から帰ってくる早々全力でライガに研究室のドアを破壊されるわ、いきなりアリエッタに泣きつかれるわ、死にそうな貴方を連れて来られるわ……。終いにはクリフに『アリエッタを泣かせるな』と明らかに濡れ衣なのに鞭打ちされかけるわで大変だったんですよ!!」



と、ほぼノンブレスで言い切ったディストは慣れない事をしたせいか物凄く疲れていた。それから大きく溜め息を吐くと眼鏡を押し上げて言った。



「アリエッタに感謝しなさい」

「は? なんで?」

「貴方を刺した武器には毒が塗られていたそうです。それもかなり強力な、ね。あの子が直ぐに解毒しなければ、今頃ここには居ませんよ」

「ヘェ」



アリエッタが、ねェ。……しかし毒が塗ってあったとは。通りであの時やたらと熱かった訳だ。いや、今も少し熱が残っているのか、かなりボーッとする。



「毒は抜けているみたいですが、これだけの傷です。暫くは安静ですね」



まぁ、譜術も諸に食らったしなぁ。



「しかし」

「ん?」



どうした、と突然様子が変わったディストを見やると、如何にも不可解そうな顔をしていた。



「一応、傷の具合を診させて頂いたのですが……。アリエッタが応急処置をしたとは言え、毒塗りの武器で深々と刺された上に上級譜術を受けたと言うのに……致命傷が一つもないだなんて」



貴方の身体は一体どうなってるんですか?



「打たれ強いというか、タフと言うか」



普通ならとっくに死んでますよ、と言うそいつに「さあな」とだけ答えた。打たれ強いのは昔からだ。こればかりは何とも言えない。



「まぁ、良いですけどね。それよりも貴方はまだ寝てた方が良いですよ。薬は投与しましたが、熱もまだ下がっていませんし……と、言っても動きたくてもそれでは動けないでしょうが」


そう言って肩を竦められ、思わず舌打ちをする。

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