忘れられた子守唄 (11/21)

「イオン……さま……」

「………………」



別に他人なんて興味ない。誰が死んで誰が悲しもうと、オレには関係ない。
彼女が死んで、悲しむ者は勿論いるだろう。主にアッシュの部下なんかアリエッタにベタ惚れだし、ラルゴやリグレット、シンクはわからないが、まぁアッシュ辺りも悲しむのではないだろうか。

オレは悲しまないと思う。元々、アリエッタには苛立ちしか感じた事がない。いつだったか、あいつが教会の最上階でイオンを思って泣いていた時でさえ、カワイソウだなんて絶対に思わなかった。


何でずっと泣いてるんだよ
何で動かないんだよ
いつまでもそんな所でウジウジしやがって

何で
何で
何で……



「何で、諦めてんだよ。何もかも」



ムカつく。結局お前は、何もしてないじゃないか。

何も出来ないんじゃないし、何をするのかがわからない訳じゃない。何もやろうとしてないんだ。
己の不幸に酔って、怒りに身を任せて、自分から動こうとしない。

イライラするんだよ。そう言うのを見ていると。



「オイ、アリエッタ」



え、とその場にいた全員が突然姿を現したオレを驚いたように見た。



「そのままで良いのかよ」

「……グレイ…?」



力なくアリエッタが首を上げる。それにハッとして盗賊の仲間がオレにライフルを向けたのがわかった。



「邪魔すンじゃねェ」



と、その腕ごと持っていたダガーで切り落とす。



「う、うわああああああああっ!!」



絹を裂くような悲鳴が上がったが、どうでも良い。オレが今用があるのは盗賊なんぞじゃない。目の前にいるチビガキだけだ。

床に落ちた血濡れのライフルを拾い上げ、倒れた男に向けて発砲する。これだけ近ければ、流石に一発で逝けただろう。そのまま首領に向ければ、奴は肩を震わせながらアリエッタの髪から手を離した。



「早くしろ」

「え……?」

「え、じゃねェ。さっさとそのオトモダチを治せって言ってンだよ」



ゆっくりと足を進め、徐々に敵を追い詰めながらそう言う。



「これ以上大事なモンを失いたくねーなら、ちっとはテメェで動け」



大事なんだろ、あいつらが。

それから暫しアリエッタの視線を感じたが、やがて小さく「うん」と頷くと治癒術の詠唱を始めた。



「ま、待て! 話せばわかる!!」

「話せば、ねェ」



悪いがそうは見えない。そもそも話し合いで解決するのならば、業々神託の盾騎士団の幹部を二人もこんな所に派遣などさせないだろう。

それに、



「悪ィな。オレは話し合いってのは嫌いなんだ。それに正当法ってのも好きじゃない。何たってオレは狡いんだ。ンで以て、何よりも

















そこのチビと同じ…………ガキだからな」



オレは迷わずトリガーを引いた。

ドサリ、と首領の身体が崩れ落ちる。



「……死んだの?」



治療が終わったのか、アリエッタがそう問いながら近付いてきた。先程散々叩かれた為か、彼女の顔は赤く腫れ、青痣や切り傷も見られた。何だか非情に痛々しい。

オレはアリエッタの問いには答えずにライフルを捨て、その小さな頭を軽く叩いた。



「そのバケモンみてェな顔、何とかしろ」



コエーよ、と続け様に言うと当然ながらアリエッタは怒った。



「アリエッタ、バケモンじゃないもん! やっぱりグレイは……意地悪、です」

「何言ってやがる。オレは最初から意地悪だ……ろ………?」



オレの言葉はそこで止まった。

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