(うわぁ、よりによって敵の大将をこっち寄越してくンなよ……)
面倒臭ェ、と思わず小さく漏らす。だがアリエッタならあれくらい打ち取れるだろう。それにこの先にはまだまだ地雷ゾーンが控えている。そう思って再び物影に隠れようとした時、事態は思わぬ方向に転がった。
バンッ、と言う音が聞こえた共にアリエッタの乗っていたライガが崩れ落ちた。
「大丈夫!?」
アリエッタの悲鳴が上がる。ソレと同時に彼女の後ろからライフルを抱えた男が現れた。どうやら仲間が潜んでいたらしい。
「ボス! 無事か!?」
「おお、よくやった!」
これは少し厄介だ。ライフルの様な実弾を使う銃は鎧を纏わない生身の相手には絶大な殺傷力を誇る。逆に音素を使う譜業銃であったならば、多少なり譜術に打たれ強いライガやアリエッタなら大した事はなかったのだろうが……。
幸いオレともう一匹のライガは奴らの視界には入ってはおらず、今すぐにでも飛び出そうとするそいつを抑えアリエッタを見た。
「っ、よくもアリエッタのお友達を……許さないんだから!!」
それに敵の首領とその仲間は笑った。
「ガハハハッ、お前みたいなチビっ子一人に何が出来るってんだよ!」
「そうだそうだ! 女の子なら女の子らしく泣き叫んで助けを呼ぶんだな」
「ま、その前に俺らが出来なくするんだけど?」
「うるさい! リミテッド!!」
そう言って放ったアリエッタの譜術が仲間に当たる。しかし致命傷にはならず、奴らの怒りを買うだけだった。
「っ、てめぇ!!」
仲間の男がライフルを振りアリエッタの顔面を殴った。アリエッタ自身はあくまでも譜術士だ。当然打たれ強い訳もなくその小さな身体は簡単に吹き飛び、近くの壁に叩きつけられた。
「っ、」
それを見たオレの近くにいたライガが抑えていた腕をすり抜け相手に襲い掛かる。しかし、直ぐに振り返った仲間の男にライフルで撃たれてしまった。
「チッ、もう一匹いやがったか」
仲間は舌打ちし、首領はアリエッタの側に行くとその桜色の髪を徐に掴み上げた。
「いたっ……」
「残念だったなぁ、折角助けに来たお友達も俺の部下にやられちまったぜぇ?」
その言葉にアリエッタは目に涙を浮かべ悔しそうに唇を噛んだ。だがその行動が更に奴らの加虐心を煽ったのか、首領の男はアリエッタの髪を掴んだまま彼女の頬を思いっきり平手打ちした。
「お前さんらにはこっちも沢山の仲間を食い殺されてんだよ。俺らの痛みはこんなもんじゃねぇんだよ!」
それに小さく呻く彼女を何度も殴りつける。そんな時、仲間がふと口を開いた。
「ボス、多分こいつは六神将だ。どうする?」
仲間の言葉に首領は一度手を止め、思案する表情になるとすぐ様アクドイ笑みを浮かべた。
「どっかに売るか………。なんならコイツの首でもダアトに送りつけて俺らの恐ろしさでも思い知らせてやるか?」
「ハハッ、それも面白そうだ!」
と、言葉の通り面白そうに笑う奴らの下で、アリエッタは既に力なく俯いていた。意識はまだあるようだが、抵抗する気力はもうないらしい。
子供ってのは大人が少し本気になれば直ぐにこうなる。だが、泣き叫ばなかっただけまだマシか。そう冷めた思いで視線を逸らし、ライフルで撃たれた二匹のライガを見る。かなり弱ってはいるが、どちらもまだ生きてはいるみたいだ。
(さて、どうすっかなぁ)
正直放っておいても任務遂行には問題はない。ただ神託の盾の幹部を一人失う事にはなるだろうが、元々殆どが魔物で占めている部隊だ。教団にとっては差した損害にはならないだろう。