Rondo of madder and the scarlet
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そんなルークの考えている事を察したのか、目の前の彼はルークの目線の先にある縫いぐるみを手に取った。初めてこの家に来た時はまだ本体の綿詰めの途中だったが、この一か月彼はルークに勉強を教える傍らで少しずつ作り続けていた。そしてついこの間、それは出来上がり今の形となった。



「それ、出来上がったんだな」

「んー、まあな」

「陸也って見た目に合わず器用だよな」

「よく言われる………………で、」



と、彼……陸也は続きを促すようにルークを見返す。その目は「そんな世間話しに来たんじゃねーだろ」と言いたげだ。そんな彼の後押しもあり、ルークは意を決して彼の中を燻っていた疑問を口にした。



「アンタ、チーグルを知っているのか?」

「知ってるよ」



返ってきたのは肯定。そんな彼の表情は依然として変わらないが、そこにある目はどこか楽しんでいるような感情が見えた気がした。



「何で、この縫いぐるみを作ったんだ?」

「頼まれたから……と、言うより報酬ってとこだな」

「報酬?」



思わず聞き返すと、陸也は一つ頷く。



「そ。前にも少し話したと思うが、お前や鴇崎を入学させる際にオレが交渉した奴がいるンだけどよ。協力してもらった礼として作れって頼まれたんだよ」



つまり、少なくともその人は異世界の産物であるチーグルに、しかもあの自分達の仲間であるあの子供に会った事、もしくは見た事があるという事になる。茜の従姉妹は異世界経験者だと言う。もしかしてその人物はイコールで繋がっていたりするのだろうか……?



「言っておくが、オレもアイツもお前の思っている奴に会った事はねーからな」

「?」



それはどちらの事を指しているのだろうか。そう問いかけると、陸也は持っていた縫いぐるみを元の場所に戻して冷蔵庫を開けた。そこから取り出してきたのは………柏餅だった。



「食うか?」

「え? ああ……じゃあ、頂きます?」



目の前に出されて思わず疑問形で返しながらもソレを受け取った。そのまま皿にかかっているラップを取って手掴みで一口食べる。弾力のあるソレと中の餡子の甘さが口の中に広がり、思わず頬が緩む。



「美味しい」

「そりゃ良かったな」



素直な感想を述べると、陸也は空になっていたルークのコップにウーロン茶を注ぎ入れながら軽く返してきた。ふと、手元の皿を見ればまだ二つほど柏餅が乗っている。ルークはその手に持つ柏餅を食べ切ると、「お前は食べないのか?」と問いかけた。



「オレは良いや。味見の時に散々食ったから」

「え………もしかしてこれ、お前が作ったのか?」



驚きに問いかけると、陸也は色の無かった表情を少しだけ顰めて「悪いかよ」と言った。



「あ、いや……悪くないけど、うん。何かホント……ギャップあるな、アンタ」



こう言う奴の事なんて言っただろうか。少し前に学校で女子辺りが黄色い声を上げながら盛り上がっていた気がする。



(えーと、つけ麺っだけ? いや、イケメン……でもなくて……あー何だったかなー……)


「何考えてンのか知らないけどな、コレにしろあの縫いぐるみにしろ、別にオレが好んでやってる訳じゃねーからな」



つまりそれって、頼まれたら断れない質って事なのだろう。そんなどこか苦労人気質な所は元の世界にいた友人に少しだけ似ているかもしれない。



「本物は用意できないけどよ、あれば心が落ち着くってンなら作ってやらないでもない」

「え? 何を?」

「…………………」



突然変わった話題について行けずに思わずそう返せば、明らかに機嫌の悪そうな顔になってしまった。



「あー!! ごめんっ、縫いぐるみの事だよな!? あ、うん! 是非お願いしま……………って、別に寂しいなんて思ってねーよ!」

「誰も寂しがってるなんて一言も言ってねーよ」

「いやいや! 今のは明らかにそう言うニュアンスで言ってたろ!?」



思わず頷きかけて否定すれば、陸也は元の表情に戻ると肩を竦めながら「まぁ間違ってはないけどな」と宣った。



「それより、いるのか? いらねーのか?」

「いや、別に良いよ」



いらない、と暗に返せば陸也は何故だと言いたげに目を瞬かせた。



「戻ればいつでも会いに行けるから」



約束したから。待っていてくれると、信じているから。



そう言えば陸也は少しの沈黙の後、ルークから目を逸らすと「ふーん」と返した。



「なら、作らねェ」

「悪い……折角気を使ってくれたのに「自惚れンなヒヨコ頭」



何だか申し訳なくて謝ればコンマ一秒の速さで何故か罵倒された。



「何でオレがテメェ如きに気を使わなきゃなんねーンだよ。テメェで選んだんだから、それを尊重しただけだっつの。それに……それだけの気合があるなら、どうとでも出来るだろ」

「どういう事だ?」

「選択肢は一つじゃねェって事。ここは常に選択肢に溢れた世界だ。お前が後悔しない限り、思う通りの道を築けるンじゃねーの?」



言い方はぶっきらぼうだが、やっぱり気を使ってくれているのだろう。励ましてくれているであろうその言葉と言い回しに苦笑が漏れた。



「ありがとう………ってか、アンタ本当に何者だよ」



どこまで何を知ってるんだ、と暗に聞けば返ってくるのは意地悪く上がった口から放たれた、これまた意地の悪い言葉だった。



「それこそ、オレに頼らないでも答えに辿りつけるだろ? まぁ、どうしてもわかないってンなら宿題だ」

「はは、宿題とか……いつまでだよ?」



思わず笑いを漏らしながら聞けば、彼は少しだけ考える仕草を取ると壁に掛かっているカレンダーを見た。



「そうだな………じゃあ、”役者”が揃ったら答え合わせをしてやるよ」



その意味について今のルークにはわからなかったが、一つだけわかった事があった。

それは………






コイツは所謂ツンデレと言う部類に入る人種だと言う事だ!






それからルークが彼によって散々にばら撒かれていたフラグの意味を理解したのは数か月後の事だった。



2014.6.15
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