Rondo of madder and the scarlet
- その頃の彼ら- Luke - -

「え―あーはい、そんじゃまぁ、サクッと文化祭の出し物でも決めよかー」



突然、何の脈絡もなく教壇の前に立ちそう言った睦に全員の目が点になる。



「それじゃまぁって……午後の授業は?」



思わずルークが聞くと、睦はしれっと言った。



「だから、午後の授業は丸々これやで?」



その瞬間、周りの男子から歓声が上がった。



「よっしゃー!」

「勉強なしとかマジお得!」

「じゃあ早く決めて帰ろうぜ!」



などなど。実に嬉しそうである。それに睦はうんうんと頷きながらチョークを手にした。



「じゃあ、取り敢えずなんか案出してってや」

「はい、ここは無難に喫茶店とかどーでしょう?」



と、一人の女子生徒が案を出す。



「喫茶店かー。なかなかスタンダート路線できよったなぁ。折角の文化祭やで。もうちょい捻りを入れたいわぁ」

「じゃあ、ここはメイド喫茶っしょ!」



おおっ、と男子達が再び声を上げる。しかし睦はうーん、と難しい顔をした。



「それも何だか在り来たりやな。もうちょい、もうちょいや………ルー君、何かあらへん?」

「え、俺かよ!?」



いきなり話を振られ焦った。流れに任せる気満々だった為ルークは何も考えておらず、慌てて何かないかと思考を巡らせた。



「うーん……あ、じゃあサーカスってか、ちょっとしたショーとかは?」



ふと頭に過ぎったのはかの義賊団の経営するサーカスだった。じっくりと見たことはないが、彼らの住んでいる孤島のギミックやショーの練習風景を思い出し、案に出してみた。
しかし、それは斜め後ろに座っている人物から即座に却下されてしまった。



「準備と練習時間にどれだけかかると思ってンだ。つか、面倒臭ェから却下」

「じゃあ、そんなりっくんは何か妙案でもあるんか?」



睦にそう言われ、陸也は眉間に皺を寄せると「パティスリーとか?」と答えた。疑問形であったが、普通に考えて彼から出てくるとは思えなかった提案にその場にいた全員がえ、と彼を見た。



「パティスリーってあれだよな。ケーキとか、お菓子とか売ってる……」

「別にケーキと限らずとも、手作りでなんか作って当日売れば下手に人員使わなくて済むだろって話だ………てか、皆して見てンじゃねェ!」



全員に注目されているのが堪らなかったらしく、陸也は物凄い勢いで睨み付けると周りは慌てて顔を逸らした。



「パティスリーなぁ、良い案やとは思うけど……やっぱりインパクトがないわ。もっと盛り上がった方がおもろいで!」

「チッ」



思いっきり舌打ちをすると、陸也は肘をついて明後日の方を向いてしまった。しかしそれでも話は進み、次々と色んな案が出た……が、やはりどれもインパクトに欠けるという事で悉く睦に却下されてしまった。
メイド喫茶も駄目、パティスリーも駄目、お化け屋敷も模擬店も駄目。そろそろ定番の案がなくなりつつあり、話が難航してきた。そこでルークはこういう時は特に積極的に話を進めてくれるであろう人物が一言も喋っていないことに気が付いた。



「って、言うか愛梨花。お前は何か案がないか?」

「うん」



問いかければ一言だけそう返ってきた。彼女らしからぬ反応に思わず拍子抜けする。



「え、愛梨花……大丈夫か?」

「うん」

「体調でも悪いのか?」

「うん」

「話……聞いてるか?」

「うん」



全然聞いてぬぇっ! 思わず心の中で叫んでしまったが、声に出さなかったことを褒めて欲しい。明らかに様子のおかしい愛梨花にルークがしどろもどろになっていると、再び斜め後ろから声が飛んできた。



「この前からずっとこんなだよ、コイツ」

「え、そうなのか?」



全然気付かなかった。そう漏らせば呆れたような溜め息を吐かれてしまった。



「お前な……。まぁ、黙ってる時のコイツはとにかく存在感ねーからな。つか、放っておいても大丈夫だろ」

「でも……」

「今は、とにかくこのクソつまんねー話を終わらせて帰るのが先決」



そう言って押し切られてしまい、周りも声には出さないものの思っていることは同じなのか見てくる視線がそう訴えていてルークは黙るしかなかった。



「どうせ直ぐに来るだろうしな」

「え?」



小さく呟かれた言葉に思わず振り向いたが、呟いた本人は何事もなかったかのように窓の外を眺めていた。

そんな時、ついにこのクラスの出し物が決まったようだ。



「じゃあ、出し物はコスプレオーディションで決定やー!」



わぁ、と一斉に拍手が上がる。



「ルールは絶対に普段しないような有りえへんモノにする事。ジャンルは二次、三次、オリジナルなんでもOKや。ついでにオーディションに出る奴も決めたから発表するなー。なかじぃ、ルー君、みさきっちゃん、エリリン、りっくん、ゆゆこん、にっしー、ビートルの八人なー」

「オイコラ、待てし。何でさり気なくオレの名前まで入ってンだコノヤロー」



異論が出るのはやはり斜め後ろの席からだった。しかし睦はチッチッチッと人差し指を振った。



「りっくん。オーディションやでオーディション。ここでこそそのイケメン出さんでいつだすんや?」

「は、別に出さなくても良いし。大体、面白さを求めるオーディションにオレが参加する意味がわからねェ」

「いやいや、寧ろ自分が参加してこそ盛り上がるやろ。ルー君もおるし、今年はめっちゃレベルが高いでv」

「自分で出ろ」



額に青筋を浮かべてそう言う陸也だが、睦はやはり怯まない。



「俺は、司会っちゅー大役があるから無理や☆」

「テメェ……」

「まぁ、別に無理して出なくてもええで? その代わりに教室前にモデル欠席者の写真集を公開しとくだけやからv」

「それってただの脅しなんじゃ……」



思わずルークがそう漏らすが、周りは特に異論や反対はない(寧ろ乗り気の)ようで、うんうんと頷いていた。それには流石に勝てないとわかったのか、陸也は盛大に舌打ちをすると「出りゃ良いンだろうがっ」と吐き捨てて不貞腐れてしまった。
しかし睦は満足そうに頷くと、両手を叩いた。



「じゃ、話も纏まったところで今日の話し合いはお仕舞や! 明日からさっそく準備を始めるから、モデルさんと衣装役はよう相談しといてやー」

『はーい』



全員が返事をしたところで丁度良くチャイムが鳴った。結局、時間一杯まで使ったなぁ、と背伸びをしたところで、勢いよく教室の扉が開かれた。



「愛梨花ちゃん!!」



その瞬間、教室中にいた人間全員が扉を開いた人物へと向いた。ルークはもちろん、睦や陸也でさえも驚きを隠せずに目を瞬かせている。
一方、当の本人は予想外だったらしく、一斉に向けられた視線に後退っていた。それにルークが声を掛ける前に彼の隣の席にいた愛梨花が動いた。



「茜ちゃん?」



愛梨花が名前を呼ぶと、扉の前に立ち尽くしていた茜はハッとして彼女の手を取るとその場を去って行った。



「茜!?」

「え、ちょ……二人ともどこ行くん!?」



睦と共に叫んで呼ぶが彼女には届かず、二人のいなくなった教室には謎の沈黙だけが残った。



「どないなっとんねん」

「追いかけた方が良いのか?」

「別に問題ねーだろ。寧ろ行かねー方が利口だ」



訳が分からずに呆けていると陸也が帰り支度をしながらそう言った。思わず睦と顔を見合わせたが、先ほどの二人の様子からあまり悪い話でもないようなので「それもそうか」と頷いて二人の帰りを待つ事にした。



2014.2.11
/ →
- ナノ -