Rondo of madder and the scarlet
- -

【2/2】


「ルーク、もしかしてこっちに来てから髪伸びてる?」

「え、今更!?」



こちらの世界に来たばかりの頃は襟足が少し伸びている程度の短さだったが、今は肩くらいまでの長さはある。毎日顔を合わせているのだから気付いているものだと思っていただけにルークは驚きを隠せなかった。



「え、いやいやまぁ、あはは! いつも見てたから全然気付かなかったよー。めんご☆」

「えー……」

「まぁまぁ、細かい事は気にしないって……ごっ!?」



ごっ!? どんな悲鳴だそれは、と思いながら宙の頭上を見ると見事なチョップが決まっていた。そしてそんな彼女の後ろには、不機嫌全開な陸也が立っていた(顔色は大分戻ってきているようだ)



「なーにが細かい事は気にしないだァ? 全然細かくねーだろうがこの馬鹿!!」



そう怒鳴って陸也はもう一度チョップを落とすが、宙はヒラリとかわすと彼の背を蹴った。



「何すんじゃい!」



瞬間、凄まじい水飛沫を上げて陸也が池に転落する。しかし光の速さで立ち上がると、直ぐ様宙を道連れの如く池に引きずり入れた。



「ぷはっ……この野郎、何すんだよ!?」

「そらこっちの台詞だ! いきなり蹴り落とす奴があるか!」

「最初にそっちがやったんだろ!」











………何なんだよこの状況



突然目の前で喧嘩を始めてしまった二人にルークは頭垂れた。この二人がこうなると自分ではどうにも出来ない事は先日の祭りの時に嫌と言うほど学んだのだ。ここは嵐が過ぎ去るのを待つのが良いだろうと、その場を離れようとした時、更なる襲撃者が現れた。



「やっだ、陸也さん水浴び!? 私も入れてーv」

「は? ………って、清乃!? 馬鹿今来るンじゃn」



全速力で駆けてきた清乃に陸也は慌てて止めるが時既に遅し。勢い良く抱きつかれた陸也は宙を巻き込み、三人仲良く再び池の中に沈んだ。



「な、なんの騒ぎ!?」

「今、凄い音がしたけど……って、え?」

「………お前ら」



騒ぎを聞きつけた茜と愛理花と桐原も来たが、この状況にそれぞれ驚きと呆れの表情を見せる。更には居間の方からも笑い声が聞こえてきた。



「あらあら、元気が良いわね。やっぱ若い子は違うわね!」

「本当だねぇ。久々に賑やかで嬉しいよ」



そう言ってお茶を飲む立夏と清。



「つ、冷てェ……」

「寒いなら私が暖めてあげるv」

「がぼがぼがぼ……!?」



池の中で水の冷たさと山から来る夕方の風の寒さに震える陸也と彼に抱き付く清乃。そして何故か清乃に押さえ込まれて溺れかけている宙。



「ちょ、宙! 大丈夫!?」

「もう、坂月君! 大勢の前でそんな格好で女性と抱き合うだなんて不潔ですよ!」



そんな宙の心配をする茜とある意味間違ってはいないが、今の状況的にはややズレた事を言う愛理花。

そして……



「お前たちな、















もう全員風呂入ってこい馬鹿共が!!」



拳を震わせた桐原が怒鳴る。



「ぷはぁっ……げほげほっ! ……え、混浴?」

「んな訳あるかぁ!!」



宿舎用の男女別風呂だ、と漸く顔を出した宙に桐原が返し、ルークは思わず噴き出した。



(こいつらってホント……)



面白い。向こうの仲間達とはまたちょっと違うけれど、賑やかで、馬鹿ばかりが集まった変な輪。だけど、とても暖かいと感じる。



「……………」



向こうの仲間に会えない寂しさもあるが、今はまだこの暖かさを手放したくはない。そう思う己にルークは髪に触れながら小さく苦笑した。



(それに……)



ふと、ルークは茜を見た。少し前から見るようになった彼女のあの表情の理由が気になった。彼女にはこの世界に来てからは本当に色々と助けてもらっている。だから茜が何を思い、何に悩んであのような苦しそうで、そして悲しそうな顔をしたのかを確かめたい。そして自分の出来る限りの力で、彼女を助けて上げたかった。……それが、今の自分に出来る精一杯の恩返しなのだと思う。

だから、



(約束を果たすのは、その後でも良い………よな?)



でも、必ず帰るから───



ルークは誰にも聞こえない声でそう呟くと、家の中に戻る皆を追いかけた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







一方、辺りを探検に行くと言って外へ出た睦は、



「あかん、迷った」



暗くなり始めた空を見上げ、一人森の中でそうぼやいていたのだった。



2012.10.7
/
- ナノ -