Rondo of madder and the scarlet
- 阿鼻叫喚の肝試し -

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広い檜の風呂に入り、清の丹誠込めた暖かい夕食を終えて、それから皆で庭で花火をしていた茜はふと、物足りなさを感じて辺りを見渡した。



「………あれ?」



そして直ぐにその正体に気付くと、皆を呼び問いかけた。



「そう言えば睦君は……?」



その声に一同は辺りを見渡したが、あの妙に騒がしい存在の姿は見つからなかった。



「いないな」

「いない、ですね」

「山で迷ったンじゃねーの?」

「そう言えば、探検してくるとか言ってたような……」

「じゃあ、やっぱ進行形で迷子フラグだね☆」



うわぁ…………



良い歳して迷子って、と言うのは言わないお約束。正直、現状的には洒落にならないからだ。



「どうしよう………探しに行った方が良いのでしょうか?」

「別に放っておいて良いンじゃねーの?」



心配を露にする愛理花の言葉に対し、本当にどうでも良さそうに返すのは陸也だった。彼は先程の騒ぎでいつものウルフヘアーが成りを潜めてしまった髪を掻き上げながら続けて言った。



「大体、ここら一帯は広さだけは馬鹿みたいにあるけどよ、熊や猪みたいな危ないモンとかはいねェ筈だぜ」



そうだろ、と言って陸也は桐原を見た。それにより皆の視線が彼に集まると、桐原は難しい顔をして腕を組んだ。



「確かにそう言ったのはいないし、崖や沼みたいな場所も殆どないから外傷についてはそれほど心配はいらないかも知れないが…………ただ、な」

「な、何だよ。やっぱ何かあるのか?」



言い淀む桐原にルークが不安げに聞くと、彼は更に顔を顰めた。



「あまりこう言った事は言いたくないんだけど、…………まぁ、なんだ。昔からここら一体と言うのは、神隠しが起こると言われてるんだよ」

「神隠し?」



神隠しとは、お伽噺や昔話なんかでよくある"別の世界に連れていかれちゃう"とか何とかのアレの事だろうか。そう考えてからふとルークの方を見た時、清乃の呆れたような声が聞こえてきた。



「またその話? 雪女に会ってありもしない村に連れて行かれたとか言う、被害妄想極まりないお兄ちゃんの昔話はもう聞き飽きたわよ」

「まだ何も言ってないだろ……。それに被害妄想じゃない」



きっぱりと反論する兄に清乃は鼻で笑って返した。



「どう考えたって被害妄想でしょ。第一、お兄ちゃんビビリじゃない。雪女なんて妖怪に会ったら即昏倒ものだわ。きっと頭でも打って変な夢でも見たんでしょ」

(うわぁ……実の兄にああまで言えるものなのかしら……?)



茜には兄弟はいないが、今まで色んなパターンの兄弟関係を見てきた。その中でもこの桐原兄妹と言うのは何とも不思議な関係だ。それまで普通にしてても突然罵倒のし合い(とは言ってもほぼ一方的だが)が始まり、かと思えばいつの間にかまた普通に戻っていると言う………仲が良いのか悪いのか、よくわからない。茜はそんな二人を見て首を傾げていると、桐原が溜め息と共に話を元に戻した。



「もう、そう言う事で良いよ。……どの道、山吹はここの土地勘がないし、この広さだ。待っているよりかは、ある程度道がわかる奴が探しに行った方が良い」

「………しゃーねーなァ」



そう言って立ち上がったのは最初に反対していた陸也だった。



「このままあのアホがのたれ死なれても面倒臭ェ。さっさと探しに行くぞ」

「そうですね」

「夜の森かぁ、ワクワクしちゃうな!」

「宙ったら……」



陸也の言葉に頷く愛理花とはまた別の事を考えているらしい従姉妹に茜は苦笑した。



「でも、これだけ暗いと、ちょっとした肝試しみたいになりそうだよな」



ルークがそう呟くと、桐原兄妹の顔付きが変わった。



「肝試し………………………はいはーい! 私は是非陸也さんと行きたいでーすv」

「はぁ?」



ガバッと陸也の腕に抱き着きながら言う清乃に、一同はその変わり身の早さについて行けなかった。一方、兄の方はと言うと……………………………何故か家に向かって歩き出していた。



「ひーじーりちゃん☆」



そんな彼の襟を持って制止したのは宙だった。



「言い出しっぺがまさか、のんびり家で寛ぐなんて事はないよね?」







「何を言う。そんな事する訳ないだろ。況してやこの中で一番土地勘がありそうな僕が司令塔だなんて……」

「ンじゃ、さっさとクジでも引いてメンバー決めるぞ」



あからさまに視線を反らす桐原だったが、いつの間に用意したのか、クジを片手に持った陸也に引き戻された為に諦めたように項垂れた。



「言っておくが、このクジはオレじゃなくて北條がたった今作ったモンだ」

「そうか……流石ダネ」

「恐れ入ります」



遠くを見つめて言う桐原の言葉に愛理花は少しだけ嬉しそうにそう返すと、表情を引き締めて一同を見た。



「それではクジの説明ですが、クジの先端には赤と青のどちらかに塗られています。土地勘がある桐原君が赤、坂月君を青のグループリーダーとなってもらいますのでクジ引きには除外し、引いた色のリーダーとチームを組んで山吹君の捜査にあたって頂きます」



良いですね、と最後に確認するように愛理花は言い、皆は一つ頷くと一斉に陸也の持つクジに手をかけた。




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