Rondo of madder and the scarlet
- 突撃流星ガールの帰還 -

【1/2】


梅雨になり、連日雨が続く。この時期は特に湿気が多く、非常に非常に過ごしにくい。ましてや外が無理だからと言って部屋に洗濯物を干していれば余計だ。

外からのザアザアと小煩い雨音をBGMに、休日の午前はルークの勉強を見る事になった。



「ルーク、この句は?」

「え、と……天の原、ふりさけ見れば春日なる。三笠の山に、出でし月かも」

「正解、じゃあ今度はこれ」

「高砂の、尾の上の桜咲きにけり。外山のかすみ、立たずもあらなむ」

「うん、完璧だよ!」



すごい、と素直に褒めるとルークは少し照れながらも「ありがとう」とお礼を言った。

陸也から二ヶ月間みっちり勉強を教えてもらい、平仮名と片仮名、アルファベットは完璧に覚えた。漢字も彼からの指導により基本はしっかりと覚えた。それから少しずつ他の科目に手を出してみて一つわかった事があった。
それは文字、理化学系以外の大体の基礎知識は彼の世界と同じだと言う事。いや、寧ろこの世界よりも大分上かも知れない。その為、文字さえ読めれば直ぐに覚えてしまった。理化学や文字、漢文や歴史と言った世界ごとに違う物に関しても、前者程ではないがやはり覚えるスピードはかなり早い方である。ついでに言うならば、英語に関しては読み書きに関しては完璧である(彼曰く「文法が殆ど一緒」との事)。本当にただの外国人みたいだ。



「それにしても、この世界って本当に面白いよな。色んな文字があるし、使い方もあるし」

「まぁ、文字の種類に関しては……国が多いからね」

「およそ190だっけ。俺のいた世界じゃ自治区合わせても3つしかねぇからなぁ」

「それも逆に凄いよね」

「つーか、寧ろ極端?」



「「…………プッ」」



思わず声を合わせて笑い合う。この時期のどことなく静かで湿った空気を吹き飛ばす様で、とても楽しかった。



「やっぱり、誰かと一緒にいるって楽しいよね」

「確かに。てか、今笑う要素あったか?」

「え」

「え?」

「………え?」







……………。







「ない、かな。多分」

「ぶっ………くくっ、な、んだよそれ!」



再び噴き出したルークに茜なんだか妙に気恥ずかしくなり、手近にあったジュースを口付けた。



「そ、そんなに笑わなくても……」

「わ、わるい……クッ」

「ルークってば、もう」



しかし気持ちがわからない訳でもない。何気ない会話でも、時には本当にどうでも良い事でさえ笑えて来るものなのだ。



(でもこれが普通、てものなんだろうね)



ふと、茜は地方に残してきた両親を思い出した。元気にしているだろうか。今もまだ"あのまま"でいるのだろうか……。

そんな事を思っていた矢先、玄関のドアが開く音が聞こえた。



『ただいまー』

「! 誰か来たみたいだぞ」

「あ、多分……」



遥香は今日は夜勤なので帰っては来ない。茜とルークはここにいる……あと、帰ってくる人物と言えば、一人しかいなかった。

ガチャリとリビングのドアが開き、一人の少女が大荷物を抱えて入ってきた。



「いやぁ、もう今日に限って雨なんだからタイミング悪いったらないね!」



ドサリと音を立ててテーブルに荷物を置くと大きく息を吐くのは黒髪を外に跳ねさせたセミロングの少女。茜と同じく小柄だが、背丈は少しだけ高い。

そう、この少女こそが二人が待ちに待った茜の従姉妹であり、ルークが元の世界へと帰るヒントを持ち得る可能性を持つ者だった。



「あ、おかえり……宙」



茜がそう言うと宙(ソラ)と呼ばれた少女は途端に目を輝かせるとまるで流星の如く物凄い速さで飛びかかってきた。



「たっだいまあーちゃん!!」

「きゃあっ!?」



いきなり抱きつかれて驚きのあまり悲鳴を上げる。挙げ句足を滑らせてしまい、そのまま二人で床へと倒れ込んでしまった。



「茜!?」



大丈夫か、と直ぐ様ルークが起こしてくれたが、宙は未だに引っ付いたままだった。



「うわはー……久々のあーちゃんや。癒されるーv」



そう言って人の寂しい胸に擦り付いてくる彼女はどこの変態オヤジだと突っ込みたくなる顔をしていた。しかし茜が何かを言う前にルークが先に宙を引き剥がしたのだった。



「お前、いきなり危ないだろ!」

「はは、細かい事は気にしないってね♪」

「「全然細かくないから!」」



悪びれもせずにそう言った宙に思わずルークとツッコミが被った。それでもやはり彼女はニコニコと笑うだけで懲りてはいないようだった。



「ま、それは一先ず置いとこーや」



置いとくのかよ、とは間違っても返さない(キリがないから)。宙は持って帰ってきた荷物の中からタオルを一枚取り出すと濡れた髪を拭き始めた。

……しかし拭く、と言っても彼女の場合、あの黒髪はフェイク(要するにウィッグである)に過ぎない。外に出る時ならともかく、どうせ家では外しているのだから取ってから拭けば良いのにと思う。



「ねぇ、宙」

「んー?」

「何で取ってから拭かないの、鬘」

「鬘やないウィッグや!」



光の速さでそう訂正されたが、別にどちらでも良いと思ったのは秘密だ。宙も言った程気にしてはいないのか、さっさとウィッグを外すとタオルに巻いて近くの棚に置いた。




/
- ナノ -