Rondo of madder and the scarlet
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【2/2】


「どう言う事だ?」

「どうって、そのままの意味だよ」



そう言って陸也はコーヒーを飲む。それから再び彼を見ると口を開いた。



「訳ありで事情も身分も出身も明かせず、事情を知る奴がいた方が良いからと自分達と同じ学年で編入出来るよう頼んでくれだなんて……気にならない方がおかしい」

「う……」



確かにそれはそうだ。それにルークは本来学年で言えば茜達の一つ上だった筈なのに、何故か自分と同じ学年になっていたのもそう言う事らしい。自分達の知らない所で随分と事態が動いていた様である。



(なんか……わたしって、ダメだな……)



何だか自分がとても無力に感じた。ルークを助けたいと思って声を掛けたは良いが、実際はそれ以上は何もしてあげられていないと言う事実を叩きつけられたような感じだ……いや、実際にそうなのだろう。事実、今の彼を支えているのは睦と陸也なのだから。



「オイ、鴇崎」



ふと名前を呼ばれ驚いた様に陸也を見れば、やはり彼は不機嫌顔をしていた。



「余計な事を考えてンなら、その考えは捨てるんだな。お前とオレじゃ、そもそもの役割が違う。何も出来ないだなんて思うなよ」

「……!」



何でわかったのだろうか。そんな事を考えていると睦から「あーちゃんはわかりやすいんや」だなんて言われてしまった。



「茜」



今度はルークに呼ばれそちらを振り返ると、彼は優しい笑みを浮かべていた。



「俺さ、茜に会えて良かったって思うよ」

「え?」

「茜とあの時出会ってなかったら、きっと俺は今をこうして生きる事は出来なかったって思うんだ」

「そ、それは少し大袈裟なんじゃ……」



そう言うとルークは苦笑して「大袈裟じゃない」と首を振った。



「わかるんだよ。俺は不安定な存在だから、あのまま誰にも気付かれずにいたら、きっと俺は"また"消えていたんだって」

「"また"って……?」



その問いにはルークは答えず笑みだけを返すと、彼は決心したように居住まいを正すと陸也の前まで歩いていった。



「驚くかも知れないけど、聞いて欲しいんだ。俺は……ルーク・フォン・ファブレ。異世界、オールドラントからこの世界に飛ばされてきたんだ」

「ルーク……!」



突然本当の事を話し始めたルークに慌てて立ち上がると、睦に腕を捕まれた。彼を見れば口元に人差し指を当てて微笑んでいる。まるで今は見守れと言っているようで、それに茜は何も言えなくなり、ただ一心にルークと陸也を見つめた。



「向こうでは大きな戦いをして、死にかけた。いや、もしかしたら死んだのかも知れない……けど、それでも俺は今ここに"生きてる"んだ。この世界に来て手を差し伸べてくれた人達がいたから」

「……………」

「でも……それだけじゃ、駄目なんだと思う。俺も、出来る事をしなきゃ……だからその為にも、今を生き続ける為にも、睦やアンタ……そして茜ががくれたこのチャンスを活かす為にも俺に協力して欲しいんだ!!」



お願いします、と頭を下げたルークに息を呑む。対する陸也は暫く考え込むように彼を見つめていたが、やがて「オイ」と声掛けた。



「具体的に、今のお前は何を必要としてンだよ」



その言葉に、ルークは頭を上げて言った。



「俺は、この世界の文字が知りたい。文字が読めれば、書ければ……"知る事"が出来る。俺はたくさんの事が知りたいんだ」

「帰りたいとか思わねーのか?」

「帰りたいよ。でも、こうして色んな人に出会えたんだ。だからさ、もう少し……この世界を見てみたいとも思うんだ」



そう言ったルークはとても嬉しそうで、その瞳には強い輝きを持っていた。陸也はふと歩き出すと、ダイニングにあるテーブルに先程の縫いぐるみとまだ中身のあるコーヒーカップを置く。そして一つ息を吐いたあと、再びルークを向いた。



「……二ヶ月の間に基本的な知識を覚えられる自信があるっつーなら、明日から来い」

「! ああ、わかった。ありがとう!!」



ルークは本当に嬉しそうに笑うと、陸也にお礼を言った。それから睦を見れば安堵したように苦笑していた。きっと今の自分もこんな顔をしているのだろうと思えば、睦と目が合った。


「やったな」

「うん……」



言われて素直に頷く。しかしこれからが大変だ。僅か二ヶ月で覚えなければならないのだ。果たして本当出来るのかとも思ったが、陸也を見る限り何か策でもあるらしく先程から何かを探している。



「帰りに必要なものを買わないとね」



まずは本屋かな、と言う呟きは誰にも聞かれる事はなかった。


2012.7.1
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