Rondo of madder and the scarlet
- 当たって砕けろ- Attack - -

【1/2】


「ホ、ホンマに死ぬかと思うたわ……」

「チッ……」



睦のピンポン連打からの近所迷惑極まりないトラブルより十分後。漸く落ち着いた陸也と言う青年が睦を離して直ぐのやり取りだった(片やただの舌打ちだが……)。二人が静まった所で己の背に隠れ震えていた茜もそろそろと出てきて、何とか話を始められそうになった……が、



「嫌だからな」

「ちょ、まだ俺ら何も言ってへんやろ」



話を始める前から拒否を示す相手に睦が慌ててそう言うが、彼はそれはもう本当に嫌そうに顔を顰めた。



「ふざけんな。お前が来るといつも碌な事になんねーンだよ。それに大体この前だって散々人に面倒臭い事させやがって」

「いやぁ、あんなん頼めんのは自分しか居らへんかったから」

「オレだけじゃねーだろ別に。どの道、あの理事長の許可が降りなきゃ手続きなんざ出来ねーンだ。それだったら最初から聖に必死扱いて頼み込んだ方が効率良いだろうが」

「それが出来たら苦労はしないんやけどなぁ。流石に詳しい情報もない人をいきなり編入してくれ言うのも無理やろ。それに聖ちゃんやと理事長に何するかわからへんし……。せやから理事長さんと近しい人との繋がりがある自分に頼んだんや」

「ちょ、ちょっと待って!」



突然二人の間に茜が割って入ってきた。しかしその気持ちもよくわかる。今、この二人はさり気なく重要な事を漏らしていたからだ。



「あ、あのさ……もしかしてルークが試験とか全部パスして転校出来たのって……あなたのお陰だったりするの?」

「ああン?」



恐る恐る問い掛ける茜に陸也は彼女を振り返る……が、その目つきと態度のせいかとてつもない圧力があった。そしてそれを直に浴びる事になった茜は小さく悲鳴を上げると再びルークの背中へと引っ込んでしまった。



「あ、おい茜……」

「あはは、りっくんそら怖いで」

「別に普通にしてただけだ」



とは言うものの自覚はあるらしく、その表情はやや複雑そうに歪められていた。それから彼は深い溜め息を吐くと開けっ放しになっていたドアから家の中へと入っていった。







………………。







「え、どうしたら良いんだこれ……?」

「取り敢えず入ったらええんとちゃう?」



話は聞いてくれるっぽいし、と続けた睦はそう言ってそそくさと家のへと入っていく。ルークは一度息を吸い、それからゆっくりと吐くと後ろを少しだけ振り向いた。



「俺達も行こうぜ」



茜はその言葉におずおずとルークから離れると小さく頷いた。



*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇




「数日前、いきなりそいつに『取り敢えず転校させたい奴がいる』って言われたんだよ」



全員が家に入り、一人で使うには大きいリビングにあったソファーに睦、ルークと共に座ると出された透明なグラスに入ったお茶。あの彼が出してくれた事を意外に思いながらも一口飲むと、冷たいそれが緊張をいくらか和らげてくれて、ホッと息を吐いた。そこにコーヒー片手にソファーの向かい側にある壁に寄りかかった陸也がそう言ってきた。



「その前だって幼馴染みを入れたいから手を貸せだのなんだと言われたばかりだってのに」

「あ、じゃあもしかしてわたしが転校する時に試験がなかったのも……?」



前から疑問に思っていた事を問い掛ければ睦が代わりに答えてくれた。



「そや、りっくんが理事長さんの関係者に執り成してくれて、それからまたその関係者が理事長に頼んで手続きをしてくれたっちゅー事や!」



凄いやろ、と言いたげに話すそれに素直に驚いた。理事長を動かせる程の人と言うのもそうだが、何よりもその人と知り合いだと言う彼は一体何者なんだろうか。



「その、関係者って誰なんだ?」



ルークがそう問うと、陸也は少しだけ言い辛そうにすると小さな声で言った。



「理事長の姪」

「もっと言えば、りっくんの───おぅふっ!?」



陸也に続いて何やら言おうした睦の顔面に何かが飛んできた。彼の顔で跳ね返り床へと転がったそれは……縫いぐるみだった。



「テメェは喋るな」

「うぅ……そらないでりっくん」



なんてやり取りをする二人を後目に縫いぐるみを拾う。水色の体に顔とお尻が白くなっていて、大きな耳がある。愛らしい黒く丸い目をしていてとても可愛らしいが、何の生き物かはわからないし見た事もない。手作りらしいそれはどうやらまだ作っている途中のようでお尻の所が開いていて白い綿が見えた。








……え、と言うか作ってる途中って何。誰が作ってるのコレ。

恐る恐る陸也を見れば、その視線と意味に気が付いた彼はムッとして縫いぐるみを奪い取った。



「頼まれたんだよ。その姪にお前らの編入許可を出した報酬としてな」

「あ、その……ごめんさない」



何だか急に申し訳なくなり思わず謝ると陸也は首を横に振った。



「別に良い。お前の事は知らねー訳じゃねーし、それに今回の事だって興味がなかったと言えば嘘になるからな」



そう言って陸也がルークを見れば、陸也の持つ縫いぐるみをジッと見つめていた彼はハッとして首を傾げた。



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