Rondo of madder and the scarlet
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「プリクラ……」



煌びやかな美少女が大きく描かれている外装をチラリと見て小さく呟く。あの中に男二人と自分で入るのかと思うと、嫌ではないが何となく……微妙なような、恥ずかしい様な……そんな感じだ。



「茜、プリクラって?」



ルークが興味津々な様子で訪ねてくる。

プリントクラブ、通称プリクラと呼ばれるそれは感嘆に言うならば写真機だ。それを自由に落書きしたり、スタンプを押したりして手軽に装飾が出来ると言ったもので、その人気は極めて高い。
それをルークに説明すれば「へー」と呟く。



「ルー君の初・高校生デビューに一発撮るで!!」



既に撮る気満々な睦はそう高らかに言うと茜とルークの手を掴むとズンズンとプリクラ機の撮影ルームに入っていった。



そして……



「ぶっ、あっははははっ! 何やコレ、ルー君のポーズ最高やん!! ぐ……ぷふっ、ホンマ何やこの女優ポーズ……っ」

「う、うるせぇよ! こう言うポーズしろって機械が言うからやっただけだっつーの!」

「いや、別に一々その通りにする必要はないんだけどね」



苦笑混じりに茜が言えば「そうなのか!?」とルークはショックを受け、それから見る見る内に顔全体が真っ赤に染まっていった。それを見た睦は更に噴き出す。



「ははっ、焼きリンゴや!」

「うっせ!」

「さぁさ、早いとこ落書きしよ〜」



鼻歌混じりに睦はそう言うといち早く落書きを始める。ルークはその背中を見つめながら不貞腐れたように口を尖らせた。



「くそっ、睦の奴からかいやがって」

「まぁ、それが睦君だから。でもそれだけルークの事を気に入ってるんだよ」



茜がそう言うと、ルークは押し黙る。だが、そうでなければわざわざルークを高校に入れる手続きを買って出たり、こうして遊びに誘ったりなどはしないだろう。
恐らくそれはルークもわかっているのだと思う。だからこそ、彼にも睦に色々と思うところがあるのだろうと茜は考えていた。



「おーい、二人とも出来たで〜」

「え、もう?」



いくら何でも早くないかと思って睦を見れば、既に人数分を切り分けたプリクラを手に持っていた。



「二人が全然書かへんから俺がぜーんぶ書いてやったで〜♪」



そう言いながら睦は茜とルークにプリクラを手渡す。受け取ったそれを見て小さく笑った。



「睦君ったら女の子みたいな字。『ムゥくん、此処に在り』って何よ」

「俺のキャッチフレーズや!」

「何を売り出すつもりよ」



だなんて言いながら一頻り笑ってからルークの方を見れば、彼はプリクラを見つめながら呆然と立ち尽くしていた。



「ルーク?」

「あ、……どうした?」



話し掛ければいつもの自分の様な反応を返され、茜は首を傾げた。



「え、と……面白くなかった?」



そう問えばルークは慌てて首を横に振った。



「ち、違うんだ! そうじゃない……そうじゃなくて」



言い辛そうに段々と声が萎んでいくルークに茜は静かに続きを待った。

周りに響く人の声やゲーム、店内の音楽だけが二人の耳を占めていた……が、やがてルークはとても申し訳なさそうに眉を下げると、小さく、一言だけ言った。










文字が読めないんだ、と。



2012.6.14
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