Rondo of madder and the scarlet- -
【2/2】
「おー、あーちゃんに聖ちゃんやないか! 二人もこれから昼飯かいな」
「お昼はもうとっくに終わってるわよ。今は桐原君に学校を案内して貰ってたの……って、聖ちゃん?」
誰それ、と言いたげに睦を見ると彼は一瞬キョトンとして見せたが、直ぐに意味ありげにニヤリと笑った。それに咳払いをしながら恨めしげに口を開いたのは桐原だった。
「山吹……」
「んな怖い顔せんて。ええあだ名やろ?」
「え、て言うか聖ちゃんて桐原君なの?」
「鴇崎さん、君もそこは深く追求しないで」
困ったように眼鏡を押し上げる桐原はやはり睦の言う"聖ちゃん"なのだろう。
(男の子なのに……ちゃん……)
そんな事を思っていると、桐原は一つ溜め息の後、睦の後ろにいるルークを見た。
「…………」
「…………?」
「君がルーク・フォン・ファブレだね? 僕は鴇崎 茜さんと同じクラスの桐原 聖。よろしく」
無言で見つめていたかと思いきやいきなり話し掛けられてはルークは驚くも、差し出された手を取ると「よろしく」と返した。
「事情は知らないけど、何だか大変みたいだね。何かあったら遠慮なく言ってくれよ。僕以外にも山吹もいるし、それにそっちのクラスには北條さんや………あいつもいるからね。君の助けになると思うから、存分にこき使ってやってよ」
「え、あ……うん。わかった……?」
「ちょ、ルー君そこ頷くとことちゃうで!」
何だかとんでもない発言をかました桐原に頷いたルークに睦がツッコミを入れた。そんな彼らを後目に茜は桐原の言葉が気になり首を傾げた。
「桐原君、北條さんやあいつって誰?」
「ん? ああ、それは……」
「北條ってのはウチのクラスの委員長や!」
「委員長って、隣の席のあの子か?」
桐原の代わりに答えた睦にルークは今朝の生真面目な少女を思い出した。
「そーそーその子や」
「ルーク、勘違いしないように今の内に訂正しておくけど、北條さんは委員長って呼ばれてるだけであって、今は委員長じゃないから」
「そうなのか?」
「寧ろ今の委員長はそこの関西人な」
そう言って指さされた睦を見て驚いたのは茜だった。
「え、睦君が……委員長?」
「なんやあーちゃん! 俺が委員長やなんて当てはまりすぎて声も出ぇへんか!」
「そんな訳ないでしょ」
わっはっはと大口開けて笑う睦に茜は溜め息混じりに首を振る。ルークは苦笑しながら委員長とは何かを考えていた。
一頻り笑った睦はふと思い出したように小さく声を上げると桐原を向いた。
「あ、そや聖ちゃん。あいつと言えば、今日もサボリやったで」
「……そう」
まるでわかってたかの様に頷いた桐原だったが、その表情は少し暗い。それから肩を竦めると仕方ないと言いたげに踵を返した。
「それじゃ、僕はこれで失礼するよ」
「え、あ……うん。案内ありがとう!」
いきなりの事で反応が遅れながらも茜がそう言えば桐原は後ろ手に手をヒラヒラさせながら歩いていってしまった。
「……結局、あいつって誰なんだ?」
ルークが首を傾げながら漏らせば、睦は小さく笑って言った。
「俺の隣の席が空いとったやろ? ホントならそこに座ってる筈の奴や……まぁ、タイミングが合えばいつでも会えるわ」
「そっか、じゃあ良いや」
(全く話に付いていけない……)
何やらルークは納得したようだったが、茜には何が何だかわからなかった。それに少し疎外感を感じたが、男の子同士の話だから仕方がないと思う事にした。
「あーちゃん!」
「っ!?」
不意に話し掛けられ、茜はビクリと肩を震わす。睦は苦笑を漏らしながらも謝った。
「あーごめんごめん」
「べ、別に……それより何?」
「あーちゃんは今日放課後空いとるか?」
「まぁ、空いてるけど」
特に用事はない筈、とそう返せば睦はニッと笑った。
「なら、ルー君と三人で遊びに行かへん?」
「「え?」」
その言葉に思わず二人の声が重なった。
「この町に来たばかりの二人を案内したいし、何よりも二人と遊びたいんや」
ええやろ、と期待に満ちた目で見られ思わずルークと顔を見合わせる。それから小さく笑い合うと頷いた。
「うん、わたしも遊びたい」
「こっちでの遊びってのを教えてくれよな!」
「おう、この睦様にドーンと任しとき!」
胸を叩いて宣言する睦に二人は放課後への期待を寄せたのだった。
2012.6.7