Rondo of madder and the scarlet
- 居候様、お一人追加 -

「ふむふむ、なーるほどねー。まぁ、良いんじゃない? 居候が一人増えようと二人増えようと変わらないよ!」



寧ろ賑やかで楽しそう、とルークを何とか置いてもらえないかと頼み込んだ(異世界云々は取り敢えず伏せた)矢先、にこやかにそう言ったのは茜の叔母……遥香である。三十代後半とは思えない若々しい見た目のその人は、ルークの容姿や事情を深く追求するわけでもなく、あっさりと二人の頼みを許可してしまった。
そのあまりの呆気なさに茜もルークも拍子抜けをしてしまったのは言うまでもない。



「あのー叔母さん、頼んでおいてアレなんだけど……そんな簡単に決めちゃって良いの?」

「細かい事は気にしないってね♪」

「こ、細かい事?」

「……じゃないと思うんだけど」



だがしかし、置いてもらえると言うのならここは素直に甘えておくが吉。少々(いやかなり)都合が良過ぎて怖いが、まぁ良いかと取り敢えず納得したのだった。



「じゃあ、早速日用品と服を買いに行くよー。二人とも、準備してね!」

「あ、うん!」

「俺、この格好のままなのか?」

「まぁかなり目立つけど、面白いから良しよ♪」



と、ウインク決められながら言われてしまい、二人は何も返せなかった。そして結局、その後はかなりの一目を引いた買い物をする羽目になったのだった。

それが数日前の事である。


そして……



「ルーク、制服が届いたよ」



つい今し方、宅配便で届いた荷物をリビングに運び、テレビを興味深そうに眺めていた白い七分袖のパーカーにジーパン姿のルークに声を掛けた。話しかけられたルークはバッとテレビから視線を逸らすと茜の持つ荷物を受け取りながらお礼を言った。



「ありがとう!」

「どういたしまして」



同じ家に住むのだから敬語はいらない。そう言われてから外して、漸く慣れてきた言葉のやり取り。大分ぎこちなさも減ってきたと思う。
なんだかそれが嬉しくて、思わず口元が上がる。それに気付いたルークが首を傾げると、何でもないよと首を振った。



(だって、兄弟が出来たみたいで嬉しいだなんて……恥ずかしくて言えないよ)



茜は元々は一人っ子な為、兄弟はいない。だから少し、兄や弟を持つことに憧れていた。ルークが果たして兄なのか弟なのかは、彼の実年齢からしてどう取るべきかはわからないが、それでも今は親元を離れている茜にとって、"家族"と居る事は何よりも安心するのだ。



「あ、ルーク。とにかく一度着てみなよ」

「え、今?」



ポカンとする彼に茜は頷いた。



「一応、サイズが合ってるか確認したいし。もし合わなかったらムゥく……睦君に連絡しなきゃだし」

「あ、そっか。うん、わかった。ちょっと着てくるよ」



そう言ってルークは制服を取り出して手に持つと、着替える為に一度リビングを後にした。彼と入れ違いで部屋に入ってきた遥香は荷解きされた箱を見て笑った。



「あら、制服届いたんだ」

「うん。それで今ルークに一度着てもらおうと思って」

「そうなんだ。ふふ、睦君にお礼を言わないとね」



遥香の言葉に頷く。茜の時もそうだったが、ルークの編入手続きから制服の手配までの全てを請け負ってくれたのは睦だった。本当ならばもっと編入試験とか(特にルークには身分証明がない為、複雑な手続きが)必要な筈なのだが、それらを全てパスさせるとは一体何をどうしたしたらそうなるのだろうかと気になる所だ。しかしそれを彼自身に聞いても「友情の力や!」と言ってはぐらかされてしまう為、結局はわからなかった。



(今度またちゃんと聞いてみよう)



そう思った時、着替えが終わったルークがリビングに戻ってきた。そしてそれを目に留めた茜は言葉を失った。



「……………」

「ど、どうかな……?」



少し恥ずかしそうにその朱い髪を掻きながら言うルークに真っ先に返したのは遥香だった。



「うんうん、凄く似合ってるよ。格好いい!」

「そ、そうかな……」

「勿論よ。ね、茜ちゃん」

「え、あ……うん。凄く格好いいよ!」



外国人(本当は異世界人だが……)が自分と同じ学校の制服を着ると、やはり存在感が違う。特有のオーラと言うか……とにかく目立つのだ。珍しい朱い髪もそうだが、元々ルークは整った顔立ちをしている為、更にそれを引き立たせているのだろう。
これは学校に通い始めたら暫くは大変そうだね、と茜は遥香と話すルークを見ながら他人事に考えていた。



2012.6.3
/
- ナノ -