とあるレストラン。 昼時らしく中は大いに賑わっていた。 「あ、いらっしゃいませー!何名様ですかっ?」 「三人です。」 「了解しました。……ヒザシ、案内よろしく!」 「オーケー。ではこちらへどうぞ!」 お揃いのエプロンを装備した二人組が家族連れを奥のテーブルへと案内する。 「……なぁ、ヨシュア。」 「何だい?」 「何でオレた」 「あ、わんこ君。これを三番テーブルに。」 「オレはわんこじゃないッス!」 「分かった分かった。……で、何だって?」 「今のタイミングわざとだろ…。何でオレ達こんな事してんの?」 「何でって……皆で食事してたらうさぎちゃんが『小さい』の単語に反応して大暴れ、それを止めようとしたヒザシとわんこ君が巻き込まれて被害は拡大。ぼく達は関係無く食事をしていたけどいざ会計って時に代金支払い係のわんこ君がうさぎちゃんを止めてなかったから払えずじまい。結局連帯責任で皆バイト……だろう?」 「決めた。今度からあいつらと飯食べない。」 「うん、それ正解。」 接客にあまり向かない二人は裏方に徹している。 ルツは運ばれてきた皿を洗い、ヨシュアは指示された通りにサラダを作っていた。 「う、うぇ〜……あたし目ぇ回るぅ…。」 「はい、次はこれを5番テーブル。」 「っ……ちきしょッ、鬼!」 休憩と言わんばかりにやってきた三月兎に何の遠慮も無くサラダを乗せたトレイを押し付けた。 受け取ると同時に悪態を吐き、作り笑顔を浮かべて客の中に入っていった彼女は知らない。 「……うさぎちゃんがバイト代出ないって知ったらどうなると思う?」 「バイト延長。」 「真実がバレる前に終わらせて逃げようか。」 「当たり前だろ。」 自分が去った後でこんな会話がされていた事を。 「すみませーん!」 「あ、はぁい!」 奥のテーブルに呼ばれた三月兎を見やりながら比較的常識に恵まれた白兎とヒザシはひそひそと話していた。 白兎の表情はどこか怯えているようにも見える。 「ねぇ、やっぱりちゃんと話した方が良いんじゃない?」 「世の中知らない方が良い事もあるッス…!」 「どうせバレるのに…。」 「ヒザシ!ぜーったいにバラしたらダメッスよ!殺されるッス!」 金に目が眩んだ少女がどれだけ恐ろしいか身を持って体験している白兎は自分の口元で人差し指を立て念を押す。 いつになく真剣な眼差しに圧倒されたのかヒザシも頷いた。 「ちょっと、そこの!金掛かってんだからしっかり働け!!」 「あ、はいッス!」 三月兎の怒声に押された白兎は立ち話を止め慌てて仕事に戻った。 「……絶対真実教えた方が良いと思うけど。」 後回しにしたところで結果は目に見えている。むしろ後から知らされた方が怒りが倍増しそうなものなのに。 呆れたように呟いたヒザシの一言は誰にも聞かれる事なく消えていった。 「つ、疲れた〜!」 「お疲れッス。」 客足も途絶えた頃、三月兎と白兎は二人並んで一息ついていた。 ただし心にやましい事のある白兎はややぎこちない様子である。 「もう駄目、あたしこれ以上動いたら死ぬね!」 「うさぎちゃんったら大袈裟だなぁ。」 「うっせーやい!あたしは死ぬ気で働いたんだよ!」 「まだまだ働いても大丈夫そうだね。」 「聞いてなかったのか!?」 「お、落ち着くッス!また暴れたら大変な事になるッスよ!」 「そうだよ、元はと言えば君が暴れたからこうなったんだよ。」 「じゃあ喧嘩売ってんじゃねえええ!!」 「三月兎ー!」 裏から出てきたヨシュアに兄譲りの短気な三月兎は簡単に食って掛かった。 また問題を起こされたらたまらないと白兎は必死になって宥めていた。 「ヒザシ。」 「何?」 そんな三人組を余所にヒザシとルツは客のいない店内でくつろいでいた。 「あのうるさい奴がさ、暴れる前に逃げるけど。」 「え?逃げる?」 「また巻き込まれたくないし。ヒザシはどうする?」 ルツの質問にヒザシは少し悩んだ。 確かに面倒を起こされてまた同じような目に遇わされたら大変だ。 しかし彼女の性格上このまま見捨てて逃げるような真似も出来ない。 「私は大丈夫、かな。」 「……分かった。」 彼女らしい返事にルツは了解の意を示した。 元々逃げる予定を立ててたのは自分とヨシュアだったのだ。それに巻き込む事もないだろう。 [*前] | [次#] |