「タダ働きなんてごめんだし、まあ頑張れ。」

「はぁ!?タダ働き!?」


ヒザシに送ったつもりの言葉は運悪く騒ぎの元凶である三月兎の耳に入ってしまった。
失言に気付いても時既に遅し、鬼の形相でずかずかと近寄ってくる三月兎から逃げる事は出来なかった。
助けを求めて周りを見渡しても誰も助け船を出そうとしない。ヒザシですらやれやれと言わんばかりに首を振って呆れるだけだった。


「ルツ君、タダ働きだなんて本当かい?僕知らなかったなぁ。」

「ヨシュア!?」


ヨシュアは巻き込まれないとあっさりルツを見限る事にしたようだ。
それを信じられないといった表情で見ている白兎なんてお構い無しである。


「あたしはなぁ、タダ働きがいっちばん嫌いなの!金金金、金ーッ!!」

「ちょ、三月兎!みっともないッス!」

「うるせぇっ!!金が無いんじゃあたしの苦労はどうなるってんだ!!」

「か、帰りにお菓子くらい買ってあげるから落ち着くッス!」

「そんなんで割に合うかあああああ!!」


大方の想像通り自分が発端である事を忘れて白兎に掴みかかった。
金の亡者は恐ろしい。白兎は宥めるための言葉を必死になって考えた。


「仕方ないなぁ。はい、これ。」


二人の間にヨシュアが割って入ったかと思うと三月兎の手にいくばくかの金を握らせた。


「これあげるから大人しくするんだよ。それともまだ働くかい?」

「ちっ……命拾いしやがって。」

「え、オレ死ぬとこだったんスか?」


渋々といったところで三月兎が引き下がり白兎はほっと一息吐いた。


「助かったッス、ヨシュア。」

「気にしなくて良いよ、僕のお金じゃないし。」

「え!?」

「あーっ!!財布が無い!」

「あっ!オレも無いッス!」


ヨシュアの言葉に首をかしげているとヒザシの悲鳴が響いた。三月兎が喚いている間に荷物を取りに行っていたらしい。
続いて白兎が自分のポケットを探すと財布がなくなっている事に気付いた。


「ちょっと、ヨシュアでしょ!」

「何だい?」

「あたしの財布よ!」


戻ってきたヒザシはヨシュアに詰め寄るが当の本人はどこ吹く風である。


「あのままうさぎちゃんを放置した方が損害出るし手っ取り早いじゃないか。」

「うっ…。」

「まあ今度はうさぎちゃんが暴れないように仕付けるんだよ。」

「オレには無理ッス。」

「即答なんだ。」


ルツの呟きは今回は誰の耳にも届かなかったようである。
巻き込まれた以外特に被害を被ってないためか彼の様子はどこか他人事のようだ。


「最低限の被害で一件落着だね。」

「あんたが言うな!!」


ヒザシの叫びに反論は出なかった。
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