「すみませーん!」 「あ、はぁい!」 奥のテーブルに呼ばれた三月兎を見やりながら比較的常識に恵まれた白兎とヒザシはひそひそと話していた。 白兎の表情はどこか怯えているようにも見える。 「ねぇ、やっぱりちゃんと話した方が良いんじゃない?」 「世の中知らない方が良い事もあるッス…!」 「どうせバレるのに…。」 「ヒザシ!ぜーったいにバラしたらダメッスよ!殺されるッス!」 金に目が眩んだ少女がどれだけ恐ろしいか身を持って体験している白兎は自分の口元で人差し指を立て念を押す。 いつになく真剣な眼差しに圧倒されたのかヒザシも頷いた。 「ちょっと、そこの!金掛かってんだからしっかり働け!!」 「あ、はいッス!」 三月兎の怒声に押された白兎は立ち話を止め慌てて仕事に戻った。 「……絶対真実教えた方が良いと思うけど。」 後回しにしたところで結果は目に見えている。むしろ後から知らされた方が怒りが倍増しそうなものなのに。 呆れたように呟いたヒザシの一言は誰にも聞かれる事なく消えていった。 「つ、疲れた〜!」 「お疲れッス。」 客足も途絶えた頃、三月兎と白兎は二人並んで一息ついていた。 ただし心にやましい事のある白兎はややぎこちない様子である。 「もう駄目、あたしこれ以上動いたら死ぬね!」 「うさぎちゃんったら大袈裟だなぁ。」 「うっせーやい!あたしは死ぬ気で働いたんだよ!」 「まだまだ働いても大丈夫そうだね。」 「聞いてなかったのか!?」 「お、落ち着くッス!また暴れたら大変な事になるッスよ!」 「そうだよ、元はと言えば君が暴れたからこうなったんだよ。」 「じゃあ喧嘩売ってんじゃねえええ!!」 「三月兎ー!」 裏から出てきたヨシュアに兄譲りの短気な三月兎は簡単に食って掛かった。 また問題を起こされたらたまらないと白兎は必死になって宥めていた。 「ヒザシ。」 「何?」 そんな三人組を余所にヒザシとルツは客のいない店内でくつろいでいた。 「あのうるさい奴がさ、暴れる前に逃げるけど。」 「え?逃げる?」 「また巻き込まれたくないし。ヒザシはどうする?」 ルツの質問にヒザシは少し悩んだ。 確かに面倒を起こされてまた同じような目に遇わされたら大変だ。 しかし彼女の性格上このまま見捨てて逃げるような真似も出来ない。 「私は大丈夫、かな。」 「……分かった。」 彼女らしい返事にルツは了解の意を示した。 元々逃げる予定を立ててたのは自分とヨシュアだったのだ。それに巻き込む事もないだろう。
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