大八木帝人ー3




「でも、君は盲目に進のことを信じてあげてほしいんだ。すべてあの子が言うままに」
「……でもそれじゃ」
「否定すること、追求することは、無頓着な他人が興味本位でやってくれるわ。でもね、帝人くん。あの子はね、強くないんだよ。君みたいに、過去と向き合えることもないんだ。今、あの子は忘れているよ。たまには思い出しているだろうけども、辛かった経験はもう、自分の記憶としてじゃないかもしれない。どこか、隔離しちゃっているんだ。認めたくないのと、認めきれないのがあるんだろうね」
「だったら、余計に、一人で、悩むのは」
「おせっかいは優しさとは違うよ。私は、君に、長い目で見て欲しいんだ。焦らせないで欲しい。あの子は、あれでも少しずつ歩いて行っている。見ているだけなんて辛いことを君に押し付けるけども、あの子に必要なのは、ただ傍に居る君という存在なんだよ」
「傍にいるだけなら、俺じゃなくても」
「ははは。言わせるつもりかい。あの子は君が好きなんだよ。傍にいてやってよ。それだけでいい。少しずつ時間を積み重ねていくうちに、あの子の中で何か自信みたいなものが大きくなって、そうしたら、いつか、ちゃんとあの子は向き合うよ。その時にこそ、君はすぐにあの子のこと抱きしめてあげて欲しい」
「つまり、進の歩数に合わせるってことですか?」
「そう。あの子には自信がないのよ。だから、あんなにも明るいことが言えるの。あの子は理想を語っているの。理想ばかり追いかけているの。そうすることでしか、前を向けない、人前で話すことも怖がっていたくらいだしね」
「……あの、本当に、傍にいるだけでいいんですか?」
「ええ。それだけですごく心強いわ。何があっても離れていかない人になって。君が盲目に進を信じることで、いつか進が『盲目に君を信じる』ことができるようになってもらわないと困るの」
そこから新しいステージの幕開けよ、とおばあちゃんは言った。
「私はもう長くはないからね。私はあの子の傍にずっといるって言ったのに、それを、破ってしまうの。最低でしょ? だから、最後に帝人くんに会えてよかった。私の思いをぶつけるようなお願いしかできないけども、任せたわ」
「……長くないって」
「あの子が高校卒業するまではもつといいんだけどって、いう、それほどのレベルよ。けども、まぁ、君なら進を一人にしないでしょう?」
「はい」
脳裏に父さんの笑顔がよぎった。

でも、いや、いいんだ。
体裁なんて、いいんだ。

大切なのはいつだって変わらない。

「何があっても、絶対に傍に居ます」

*****
結局、三人でたこ焼きパーティーみたいなことをした後、俺は、進の部屋に泊めてもらうことになった。なんだか、二人っきりの就学旅行みたいでウキウキする。上機嫌に俺が、畳の上にお布団を引いていると、進は出窓から星空を見上げて呟いた。
「ね、帝人。俺がいない間に、おばあちゃんと何か話していた?」
「え、うん。こうなれたらいいなっていう理想に、がむしゃらに手を伸ばしても駄目だなって言うような話をしていたかな」
「?」
「いやさ、こうなりたいと願う筋書きはいつも手が届かなくて、焦って転んで。ぐだぐだで。理想とは程遠い自分に悲しくなる。みたいな?」
なんて言えばいいんだろうと、説明にならない説明をしながら、俺は進の隣に座った。星空はとてもきれいだ。
「つまり、俺は、頑張ろうとしていたことが、空廻って、失敗していたようなっていう」
「……でもそれって、頑張ったことに、そういう辛い思いを経験したことに意味があるんじゃないかな。よくわからないけども、最終的に笑えたら、いいと思うよ俺。姿や形がどうでも、さ」
「最終的に笑えたら、か。そうだな」
少し薄暗い部屋の中で見る進と、さっき並べて引いたお布団二枚が脳裏に焼き付いて、俺はカッとなってしまった。
「進、手をつないで、眠りたい」
「え?」

こうして俺と進は並んだお布団にそれぞれ入って、手だけ繋いで転がった。
進は「帝人は少女マンガ脳だ」と拗ねたように言う。俺はその言葉の意味がよくわからなかったけども「どんな少女マンガ読むよりもこうして手を繋いでいるだけで、俺は幸せだよ」と告げた。

進は、聞こえないような声で「俺も幸せだよ」と言ってくれた。



理想もいいけど、
俺は、
君と送る日常を
真っ直ぐ見るよ。
いつか辿りつける
未来を願って。






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