大八木帝人ー1




しかたないことだったんだ。誰も悪くないはずなのに、励まされるたびに空しくなった。現実は、変わらない。
父さんの最後は、悲惨な顔だった。

*****
文化祭の準備で帰りが遅くなってしまった。こんな暗い道を進一人で帰らせるのが不安で、俺は進を家まで送っていった。
で、無事、進を家まで送ることはできたんだけど、誤算が一つあった。ついつい幸せ過ぎて、手を繋いでいるのを忘れていた。学校の廊下から、ずっとここまでつないだまま歩いてきてしまった。
その結果、進のおばあちゃんに見られてしまった。
「そんな怖がらなくても。私は反対しないよ? あなた、帝人くんでしょう。よかったら、夜ご飯、食べておいき」
「え、はい、じゃあ、お言葉に甘えて……」
すんなりと受け入れてもらえたことに俺は驚いた。もっとこうなんていうのか、怒られるかもって、思っていたから。
「帝人、無理に付き合わなくていいよ。おばあちゃんも、急に誘ったら迷惑だって」
「俺、俺は、嬉しかった、です。だから、迷惑だなんてことは」
「そうかい?」
「はい。こちらこそ、迷惑じゃなければ、ご一緒させてもらえたら、嬉しいです」
進は家のことを何も話さないから、知りたかった。少しでも進のこと理解して、進を守れるような自分になりたかった。
ただ盲目に信じるだけでは、守れないから。

父さんを失ったように。

*****
「………」
進は居心地が悪そうに唇を噛んでいる。俺がこうして家に上がりこんだことは進にとって迷惑なことだったのだろうか?
どうしよう、この空気! なんて悩んでいたら、呑気な声が響いた。
「進、この缶、開けておくれ」
「おばあちゃん、貸して。ほら、空いたよ」
「ありがとう、助かるわ。私じゃ開けられないから、進がいてくれて本当に」
「もう、別にたいしたことじゃないよ。これくらい、何時だってできるし」
ほのぼのとした二人のやりとりに、俺までにこやかになってしまう。仲がいいんだな。
「帝人くん、よかったらどうぞ」
「え?」
進が空けた缶を俺に向けて、おばあちゃんは言う。缶のなかには、海苔が入っていた。
「……?」
海苔をどうするんだろう。海苔だけもらっても、どうしたらいいのかわからない。
「帝人くんはいい暮らしをしているんだね」
「え、と……ふつう、ですよ?」
「そうかい。制服がとても綺麗だから、てっきり。あと髪の毛も」
「髪の毛は、その。進が教えてくれたシャンプーを使っています。ちゃんと説明通りに。あと、制服は毎日手入れしているだけです。特別に、何か、こう、いい暮らしとかは」
自分が思っていることを言うよう、努めてはみたものの、もっとちゃんと会話を合わせるべきだったのかもしれないとか、考えてしまって、俺はだんだんと俯いてしまった。
「おばあちゃん、帝人、人見知りするから、そんなにガンガン聞いたらダメだって」
「あ、そうだね。ごめんね、帝人くん」
細い目をさらに細くしておばあちゃんは言う。
「そういえば。物置に、たこ焼き器を置いていたんだったわ。進、取ってきてくれない?」
「わかった。取ってくる」
ひとつ返事で進は部屋を後にしてしまった。
「……」
「……」
沈黙が降り注いだ。




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