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「なんで!」
「…少し声を抑えろ」
「だって、いい雰囲気になったんでしょ?」

伊作は責めるように言うとパフェを口に運んだ。私は、弁明することもなくストローをくわえてドリンクを飲む。

「それに初めてじゃないじゃん。高一のときに付き合ってた人と…んむっ」
「場所を考えろ、あほ」

伊作の口にストローをくわえさせ、黙らせる。見渡すと、周囲のグループはみな自分たちの会話で盛り上がっていた。

「誰も聞いてないって…。でもさ、文次郎って優しいね」
「お前はどうなんだ。やったのか?」
「ええ、やってないよ」

話が自分に向けられ、慌てて首を横に振る伊作に、同じように「なんでやらないんだ」と尋ねると、「そういう雰囲気にならない」と返ってきたので、留三郎の方が優しいんじゃないかと思った。しかし何だか悔しいので口には出さない。
ピピピ、と携帯が鳴り胸ポケットから取り出すと、画面には『Eメール 1件 小平太』と表示されていた。

「誰?なんて?」
「小平太だ。外見て、だと」

ガラスの向こうにいる、制服姿の小平太が笑顔で手招きしている。私たちはそれぞれ荷物を持つと、カップを片手にファーストフード店から外へ出た。

「よ!久しぶり!」
「久しぶりだな、…そっちは?」

小平太の隣には後輩らしき男がいて、私たちをしげしげと見つめていた。

「これ部活の後輩なんだ。滝夜叉丸っていう」
「あ、平です。七松先輩のお友達ですか?」

平と名乗った少年は赤茶の髪をしていて色素は薄く、意志の強そうな切れ長の目。典型的な美少年、と感じさせられた。小平太の隣にいることで、より華奢に見えているせいかもしれない。

「近くで見るといっそう美人だろ?」
「はあ、そうですね」

得意気な様子の小平太に、平は戸惑っているようだ。
線の細いこの少年が小平太と同じようにバレーをしている姿が想像できず、観察するようにその姿を眺めた。

「バレー部か…。先輩は厳しいか?」
「はい。いつも七松先輩に扱かれてるんです」

強く訴えるような視線を向けられ、その迫力になぜか言葉を失う。隣にいた伊作はそれを見て苦笑した。

「あんまり後輩いじめちゃダメだよ」
「いじめてるんじゃない、鍛えてるんだ。な」
「え、ええ…そうです…」
「顔がひきつってるぞ」

指摘すると、平は少しむっとしたような、慌てた表情になって私を見た。
反応がわかりやすくて面白い。

「だから嬉しがってるんだって!」

愉快そうに笑う小平太に、困ったような笑みを向ける平は、どうやらたいそう部の先輩のことを慕っているらしい。
なんだか喜八郎のことが思い出される。自分を慕ってくれる後輩というのは可愛いものだ。
ふと文次郎もバレー部だったことを思い出し、あいつの慕われぶりを見てやろう、と悪戯心が湧いた。

「潮江はどうだ。いい先輩か?」
「潮江先輩ですか?」

きょとんとしている平に、小平太は「文次郎と留三郎の彼女だ」と私たちのことを紹介した。どうやらそのことを知らなかったらしい彼に、改めて自己紹介をする。

「立花だ。よろしくな」
「善法寺です」
「ええと、あの、食満先輩に恋人がいらっしゃるのは知っていましたが…潮江先輩は、いつから…?」

動揺を隠せていない平が、小平太と私を交互に見る。何を焦っているのかと尋ねたかったが、小平太が「最近だよな」と、適当な返事をして同意を求めてきたものだから、「1カ月前からだ」と正確に返した。

「そうですか…」
「…何か問題が?」
「いえ、そういうわけでは…」

たじろぐ彼にこれ以上言及するのが何だか可哀相になり、しかし面白くないのも事実で、空になったカップをゴミ箱へと放る。

「じゃあな小平太。もうこんな時間だ。行くぞ、伊作」
「あ、うん。またね、平くん」

伊作は平にも愛想良く手を振りながら、歩く私の隣へと並んだ。















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