3 暗くなるまで買い物を楽しみ伊作と別れあと、帰り道を歩いていると小平太から電話がかかってきた。何やら元気にわあわあ言っていたが、要点をまとめるとどうやら今から会おうということだったので、了承して指定された駅前へと向かう。 「よ!」 「どうした、さっきも会ったのに」 「いやあ、あんまり話せなかったからさ」 はい、と温かいココアを渡され、礼を述べてから缶のタブを開ける。 「どう、文次郎と」 「どう、と言われても」 「進展した?」 「…まあまあかな」 「へえ〜」 もう一度心の中で、まあまあか?と自問する。決して悪くはないはずだ。 昨日は拒んでしまったけれど、あれはもう仕方がない。 「小平太は、恋人はいるのか?」 「うん、いるよ」 「へえ、どんな人なんだ」 何気ない質問だったが、意外な答えに興味を持ち身を乗り出した。誰にでも好かれる小平太が好きになる女性とは、一体どのような人物なのだろう。 「さっき見たろ。あいつ」 「…は?」 「後輩の、滝夜叉丸。男だけど」 予想していた答えとかけ離れていたものだから、どう反応すればいいのか分からずに固まってしまう。…笑えばいいのか? しかし小平太はいたって真面目な様子で、冗談を言うときの表情ではない。 「まあ男子校だからな。…びっくりした?」 「い、いや、なんというか」 「女子校にはない?そういうの」 「あ、…ああ、あるな」 「やっぱり。仙蔵ってモテそうだよなぁ」 確かに今まで同性から告白されたことは一度や二度ではなかった。女同士のカップルなら、ときどき噂を聞くこともあったが、男同士、というのはあまり想像がつかない。 それがこの小平太だから、なおさらだ。 「…普通のカップルみたいなことをするのか?」 「普通だよ。キスも、エッチなことも」 「…ますます想像がつかない」 「普通なのか?」なんておかしな質問だと思うのに、小平太はまっすぐな答えを返してくれる。 頭を抱える私に、一度見てみるか?と笑うこの男はどこまでもいつも通りで、戸惑っているこちらの方が間違っているような気にすらなってきた。 「仙蔵はしたの?文次郎と」 「いや、一度、そういう雰囲気にはなったんだが…」 「可哀相に、文次郎」 「別に、そういうことをするために付き合ってるんじゃないからな」 「可哀相」の単語にグサッときたものだから見栄を張って強気にそう言い返す。 が、小平太はキョトンとして「じゃあ」と言葉を続けた。 「なんのために付き合ってるんだ?」 「は?そりゃ、好きだから、だろう」 「好き、は理由だろ?好きだからやりたいんじゃないか」 まるで当然のことのように言い放つ小平太に少し不信感を抱きながら、文次郎もそう思っているのだろうか、と複雑な気持ちになる。 いや、文次郎に限ってそんなはずは…。 「男はみんなそうだよ」 「…平もか」 「勿論」 「…男はみんな、胸の大きな女が好きなんだと思ってたよ」 今日こんなにも動揺させられた仕返しのつもりで嫌味をこめてそう呟いたところ、小平太に胸をじっと見られたものだから「セクハラって知ってるか」と頭を押して視線を離させた。 「ごめんごめん、でも、仙蔵なら小さくても大丈夫っいてててて!!」 「だからそれがセクハラだと…!」 耳を強く引っ張ってから離してやると、涙目になった小平太は耳を隠すように後ずさった。 気にしてることを言われたら誰だって怒る。 「さては仙蔵、Sだな…!」 「自業自得だ」 その後、部活や平の話を聞いていたが、互いに腹が減ってきた。ということで家まで送ってもらってから小平太と別れた。 女を送ったりしても、平は妬いたりしないのだろうか。 男と女では考え方が違うのかもしれないが、私ならあまりいい気はしないな、と去って行く小平太の背中を見ながら思った。 |