ふたりの世界

※友人。腐れ縁な文+仙
※中学一緒だった2人が同じ高校に入って偶然同じクラスになりました(高1)という設定で見てもらえれば…!










「立花って女みたいな顔してるよなぁ。もしかして男が好きだったりする?」

授業中。後ろの席から人を馬鹿にしたような台詞と、複数の笑い声。それらと共に、「は?」と仙蔵の苛立った声が聞こえた。
なにを言っているんだ授業中に。呆れて、というよりは関わり合いになりたくなくて、前を向いたまま気付かぬフリを決め込む。

「どんなのがタイプ?こいつなんかどう?」

遠くから囁くような声で「立花くん付き合ってー」とか「キャー」とか、黄色い声が聞こえた。女のような声を出しやがって、ここは男子校だぞ。というかそもそも今は授業中だ。化学担当の井上先生は生徒が話を一切聞いていなくたって、あの小さな声でどんどん授業を進めていく。いつも思うけれど機械みたいな人だ。

「男と寝たことある?」

…だんだん質問がエスカレートしてきた。仙蔵は無反応だ。そうだ。放っておけ。こういう性質の悪いのは無視するに限る。俺の真後ろの席で大人しくノートをとっているはずの仙蔵に、心の中で訴えかける。耐えろ。あと5分もない。

「なあ。聞いてんの?なあってば」

しつこい野郎だな。聞いている俺ですらイライラしてきた。仙蔵はとっくに我慢の限界を越えているに違いない。
周りにこうもうるさくされては井上先生の声も聞こえない。つまり俺も被害者だ。そろそろ「うるせえんだよ」ぐらい言っても…

「いい加減にしろ!」
「うおわあァっ!!」

ガターンッ!!

振り返ると、どうやら仙蔵が隣の奴の肩を押したらしい。男は椅子ごとひっくり返っていた。

「ってえなぁ!何すんだよ!!」
「今謝れば許してやる」
「えっ…ちょっ」

立ち上がった仙蔵が自分の椅子を頭上に掲げようとしているのを見て、ハッとした。
…やばい。

「仙蔵っ待て待て!!」

慌てて立ち上がり、とりあえず椅子を振り下ろすことのないようガシッと掴む。腕力だけで言えば俺の方が上だ。
仙蔵はそれでも椅子を離さず、しかし目の前にいる男をどうしても殴らなければ気が済まないらしい。自由になる足で、思い切り男の腹を蹴りつけた。

「死ね!」
「ぐぇっ…!」

椅子を放り投げ、男に馬乗りになって殴りかかろうとする仙蔵を後ろから羽交い締めにしたところで、仙蔵はようやく暴れるのをやめた。踞る男はただ仙蔵の変貌に戸惑い、反撃をする気力すら湧かなかったらしい。
そのまま何も言わず、友人に保健室へと連れて行かれた。
ふーふーと肩で息をする仙蔵は俺の拘束を振り払うと、固い表情のまま教室を出て、保健室とは反対側の廊下へ消えて行った。

「…」

沈黙の降りた教室に、昼休み開始を告げるチャイムの音が響く。
井上先生が、「はい、ではまた明日」といつも通り教室を去ったのをきっかけに、それぞれが昼食を食べるべくのろのろと動き始めた。
俺は窓際で駄弁っている集団に入ろうかどうか一瞬だけ迷ってから、彼らに背を向けて教室を後にした。









仙蔵は、立ち入り禁止の屋上に居た。無言のまま寄って行って、パンとコーヒー牛乳を渡してやると素直に受け取り、じっと探るような目で俺を見た。

「んだよ」
「いや…、つくづく面倒見のいい男だと思って。便利屋なんて向いてるんじゃないか」
「…お前な」
「冗談だ」

ふふ、と楽しげに笑った仙蔵があんパンの袋を開けてモグモグと食べ始めたので、俺も隣でコッペパンの袋を開ける。
何故か放っておけないのは、きっとこいつがとんでもなく不器用だからだ。仙蔵の周りには、心を許せる人間が少ないらしい。
それでも、俺に向けてくれている笑顔は本物だと、仙蔵は以前に話してくれたことがあった。

「ほら文次郎、あーん」
「やめんか。気色悪い」
「照れるな照れるな」
「照れてねえ」

こうやって屈託なく笑う仙蔵を遠くから見ている奴は、ときどき悪戯に手を出しては噛みつかれる。仙蔵の隣は今も昔も俺の場所だ。これからだって、この腐れ縁はどこまでも続いていくのだろう。









「また何か言われたら、悪いが文次郎と付き合っているんだ、とでも言うか」
「頼むからそれだけは勘弁してくれ」
「…細かいこと気にしてたら大きくなれないぞ」
「細かくねえよ!」









end.




この後、小平太たちと出会ってふたりの世界は広がります。

そしたら仙も気持ちに余裕が出来て、それから何やかんやあって最終的にラブラブ文×仙に落ち着けばいいな。










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