夢うつつ 深夜。 仙蔵は名を呼ばれた気がして目を覚ました。すると同じベッドで眠る恋人の文次郎がうなされている。 どうしたものかと瞬き、起き上がると枕元に置いてあるライトをつけた。明かりに照らされた文次郎の額には汗が浮かんでおり、表情は苦悶に満ちていた。 酷い夢でも見ているのだろうか。夢だとしても、仙蔵は恋人の苦しむ姿は痛々しくてそれ以上見ていられなかった。 「うぁ、…〜…」 「文次郎、起きろ」 肩を揺さぶると呻き声が止み、ハッと目を開いた。仙蔵の顔を見て呆然としていたが、そのうち「…夢か」と掠れた声で呟いた。 立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルを取り出して水をコップに注いでやる。 「うなされてたぞ」 文次郎はいつの間にか仙蔵の後ろに立っていた。顔色は青白く、今にも倒れてしまうのではと思わせる。文次郎はコップを受けとると、椅子に座ってから一口飲んだ。 「どんな夢を見たんだ」 「お前が出てきた」 「…私が?」 「それで…血が…」 それを聞いて思わず顔をしかめた。血?自分が血塗れになる夢だとしたら、あまり詳しく聞きたくない。 「着替えるか?襟のところ濡れてる。気持ち悪いだろう」 「…すまん」 ベッドの脇に置いてあるケースからパジャマを取り出して放ってやる。 ここは仙蔵の家だが、文次郎の物もいくらかは揃っているのだ。 洗濯機にパジャマを入れて戻って来ると、文次郎は机に肘をつき、顔を両手で覆って動かなくなっていた。 よほど恐ろしい夢だったのだろう。可哀想になってその背を擦ったら、やんわりと手を押し退けられてしまった。 「…心配してやってるのに」 「…手、冷てえ」 「お前に起こされて、何やかんやしてやったからな。折角温まって寝ていたのに」 ふんと鼻を鳴らし、そんな言い草ならもう構ってやらんとばかりに仙蔵はベッドに戻る。そこはまだ体温が残っていて温かかった。パチリと容赦なく明かりを消す。と、1分も経たないうちに文次郎がもぞもぞと布団に入り込んで来るのが分かった。 しばらくは狸寝入りをしていたが、体ごと擦り寄って来られては知らぬふりも出来ない。 「…おい、狭い」 「…温い…。ふぁぁ…」 「勝手な男だな」 幸せそうな呟きに呆れたように言ってやるが、別に心から呆れている訳でもない。 うつらうつらしているうちに規則正しい寝息が聞こえてきた。文次郎の方が先に寝付いたのだろう。先ほどとはうって変わって穏やかな様子である。仙蔵はそのことに気付くと、安心してまた深い眠りへと落ちていった。 end. |