誰かに似ている

・小平太と仙蔵の出会い
※転生要素あり









美人な転入生がやって来た。

まず目がいくのが綺麗で真っ直ぐな黒髪。
近付いて分かるのは、キリッとして意思の強そうな目。小ぶりな鼻に薄く形の良い唇。

しかし、学校中を騒がせているのはそれだけではない。

皆が注目しているもう1つの要素は、それが「男」だということだった。




噂の転入生立花仙蔵が来てから1ヶ月が経過したある日。
男子バレー部主将、七松小平太は、初めて彼と2人きりで接触する機会を持った。

すっかり日も暮れた放課後。部活を終えてから忘れ物を取りに教室を訪れると、誰も居ないと思っていたそこには電気がついていた。
一瞬入るのを躊躇う。
そっと静かにドアを開けると、そこに居たのは噂の男、立花だった。席に座って1人勉強をしている。

「立花、こんな時間まで勉強してんの?」
「…え、あぁ、…本当だ」

どうやら時間が過ぎるのを忘れて勉強に没頭していたようだ。自分とは頭の作りが違うらしい。
今まで俯いていた立花の顔が持ち上げられると、そのすべてが蛍光灯に照らされ、その肌は一層白く見えた。

「なぁ、部活入んない?」
「何だ。藪から棒に」

立花は細いが、引き締まった体をしている。それは見せかけだけではなく、体育会系の男子生徒に混じっても決して劣らない運動能力に、誰もが注目していた。

「バレー部どう?俺が面倒見てやるし」
「部活に入る気はないよ」

やはりバッサリと断られてしまった。しかしその返答は予想通りだったため、仕方ない、と直ぐに諦める。他の部の誰が声をかけても見学にすら来なかったと言うのだから。

きっと勉強で忙しいのだ。
教科書とノートを閉じた立花の目をじっと見つめる。強気そうな瞳をしているのに、自分に向けられた意外と柔らかな視線に、見覚えのある気がした。

「なんかさぁ、俺と話すの初めてだっけ」
「ああ。でもお前のことは知ってる。七松小平太だろ?」
「う〜ん…」

会ったことがあるとすればもっと幼い頃だろうか、と考えながら食い入るようにその姿を見つめる。
自分でも気が付かないうちに、いつの間にか間近に迫っていて、バシリと教科書で頭を叩かれた。

「いてっ、何すんだ!」
「ジロジロ見るな、気持ちの悪い」

目が細められると、そこへかかる長い睫毛が目立つ。見れば見るほど、線の細いしなやかな体に、きめ細かな肌。

「…ほんとに男?」

どう考えてみてもやはり初対面なのに、何故こんなにも気になるのだろう、とその原因を探るように、無遠慮に手を伸ばす。

ぺたっ。と胸に触れた。
平らで、膨らみはない。

「やっぱり男だ」と呟くと、強い力で腕を払い退けられた。
嫌悪感をあらわに表情を歪めた立花は、しかし動揺した様子もなくキツく睨んでくる。
冷たい眼。

「変態かお前」
「だって綺麗だし。……ごめん」

シュンと体を小さくさせて機嫌を窺うような視線を向けると、その表情からフッと剣が取れた。

「いいよ。…何だか、お前とは初めて会った気がしないな」
「えっほんとに!?じゃあバレー部入って!」
「何でそうなるっ!」

忘れ物を鞄に詰めて帰り道を並んで歩きながら、「友達」になれたことが嬉しくて、

七松の頭から、最初に感じていた矛盾はすっかり消え去っていた。









end.






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