この顔は生まれつき ※現パロ 大川学園年に一度の体育祭。次の種目は借り物競争だ。 午前中の締めくくりであるこの競技、障害物競争とは違い、運や時には人望まで必要となってくる。意外と難しい競技なのだ。 放送を聞いて立ち上がった仙蔵に向かい、文次郎が声をかけた。 「仙蔵、頑張れよ!」 「任せておけ」 余裕綽々の仙蔵は、文次郎と拳同士をぶつけると集合場所へと歩いて行った。 それを見送る文次郎と、その背後に立つ2組の小平太。 「何ニヤニヤしてるんだ、文次郎?」 「げっ小平太!お前も借り物だろ、早く行け!」 タッタカ走り去る小平太を見て、額の冷や汗を拭う。 実は文次郎は、仙蔵に当たる借り物競争の用紙を前もってチェックしておいたのだ。 生徒会役員の立場を利用して、前日にこっそりと。 それを見た文次郎は確信していた。仙蔵は自分のところへ来ると。 「よーい、…」 パンッ! 仙蔵の軽やかな走りに、彼の後輩やファンの女子生徒が「立花せんぱーい」や「頑張ってー!」などと応援の声を張り上げる。 仙蔵はそれらを一切気にしない様子でレーンの先に立つ係の者のところへ到達すると、1枚の紙を受け取った。 中を確認した仙蔵が、こちらへ顔を向ける。そしてキョロキョロと首を動かしながら駆けてきた。 来い、来い、と念じる文次郎の方を見向きもせず、仙蔵はなんと2組の席へと向かい、長次に手を差し出したのだ。 「何ッ…!?」 文次郎は驚愕に目を見開き、仲良く手を繋いで一着でゴールする二人の背中をただ見ることしか出来なかった。 一着だったために皆から「良くやった」や「流石」などとチヤホヤされ、ようやく戻って俺の隣に座った仙蔵に詰め寄った。 「何で俺のところへ来ない」 「は?」 きょとんとしてから綺麗な形の眉をひそめる仙蔵に下手なことは言えない。 仙蔵の頭の良さはずば抜けていて、何でもすぐに見抜かれてしまうからだ。 「いや、だから。長次を選ぶなら『友人』とでも書かれていたんだろ?」 「あぁ…お前にしては勘がいいな。実際は『1番仲の良い男子生徒』と書いてあったよ」 「なら、やっぱり俺じゃねえか」 拗ねたように唇を尖らし、仙蔵の白い膝に触れると、その下にスラリと伸びた足ごとくるりと逃げられてしまった。 くすぐったかったのかもしれない。しかし俺は存在自体を拒まれたような気がして、がっくりと項垂れた。 「…俺と手繋いでゴールすんの、嫌だったとか…そういう」 「うざったい。そういう弱気なことを言うな」 仙蔵は、傍に脱ぎ置いてあった俺のジャージを二人の間にバサリと乱暴に置くと、その下でギュッと手を握ってきた。 しかも、指と指とを絡め合う、いわゆる恋人繋ぎのやり方で。 「こんな風にして、平常心でいられると思うか?」 心無しか仙蔵の頬が赤い。 目も少し赤くなり潤んでいて、何だか堪らない気持ちになった。 「…浅はかでした」 「あほ」 ギュッとより強く握られて、心臓ごと鷲掴みにされている心地だった。 (見たい…!指の間に挟まって手のひらを合わせ、俺の手にしがみついているこいつの指を…!) 頭が熱くなってきたところで、仙蔵の指がするりと抜けて出ていってしまった。 かなり残念に思いながら仙蔵の顔に目を向けると、顔を更に赤くした仙蔵が蚊のなくような声で「いやらしい顔をするな」と吐き捨てるように言った。 「え、え」 パシッと自分の頬を触ってみるが、鏡がないのでどんな表情だったかどうかは分からない。 しかし耳まで赤くした仙蔵が「便所」と言って逃げて行ってしまうほどには、いやらしい表情をしていたのかもしれない。 「ていうかさ」 いつの間にか競技を終えて背後に立っていた小平太の存在に気付き、肩がビクッと跳ねた。 「文次郎の顔がいやらしいのって生まれつきだよな」 「う、うるせぇ!観戦中は自分の席に戻れバカタレ!」 end. |