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1年1組の演劇は、喜八郎扮する幽霊の少女『サチコ』が生前好きだった男性に告白して心残りを解消し見事成仏する、というような内容だった。

白い衣装を身にまとった喜八郎は上手く儚い雰囲気を作り出しており、これは後で誉めてやらなければ、と思いながら観劇していた。
整った顔立ちで、普段から無表情が良く似合う彼女には適役だった。

ありがとう、と最後の言葉を残してサチコが舞台袖に去ると、皆が称賛の拍手をこの演劇に送った。

入り口のドアが開かれて電気も付けられ、明るくなった講堂内で人がざわざわと動き出す。

「サチコが私の後輩でな、喜八郎と言うんだ」
「へぇ…なんだか、女が男役もするなんて変な感じだな」
「そうか?」

潮江と共に立ち上がり入り口へ向かい、また人ごみに囲まれながら靴を履く。
空気がこもっているような気がして息がしづらい。

「あ」

出て行こうとする人とぶつかりそうになった。避けようとしたが、それよりも早くに潮江の手が私の肩を抱き寄せた。

「危ねぇな」

潮江は、去って行く男の背に向けて不機嫌そうに呟き、すぐに私の肩を離した。

「人が多いからな…」

平然を装ってそう返す。
ばくばくと心臓はうるさかったが、それより顔が熱いのが問題だった。私1人で照れているなんて、決して気付かれたくない。

隠すように潮江から顔を背けると、急に目の前に先ほどの2人組が現れた。

「立花ちゃんっ」
「うわっ」

思わず嫌な顔をしそうになるが何とか堪える。振り向くと、目を丸くした潮江が私の頭上を通り越して2人を見ていた。

「男の連れ居たんだ」
「残念ー」
「はは…」

恐らくひきつってしまっているであろう笑みを彼らに向けて、こっそりと潮江の腕をつかんだ。早くここから立ち去りたい、という合図のつもりだったが、どうやら上手く伝わらなかったらしい。
潮江は臆する様子もなく、落ち着いた声を出した。

「どっか行けよ。嫌がってんだろ」

2人は一瞬ぽかんとしてから、怪訝な表情を潮江に向けた。

「何あんた」
「彼氏…じゃないよな」

潮江は2人を無視して階段を降りようとしたが、彼らのうちの1人がスライド式の携帯を構えて私の隣へと並んできた。

「じゃあメアドだけ教えてよ。また今度連絡するし。ねっ」

少し前を歩く潮江は、既に興味をなくしたようでこちらを見ようともしない。

これ以上気分を悪くさせられるくらいなら、メアドだけ教えて去ってもらおう、その方が無難だし、手っ取り早そうだ。もしメールがきても返さなければいいだけの話なのだから。

「分かった」

そう考えて制服の胸ポケットから携帯を取り出すと、突然振り向いた潮江に携帯ごと手を握られた。

「教えんでいい」
「…え、でも」

「ちょっとー」と不満の声を上げる彼らと潮江と、歩きながらごちゃごちゃとやっているうちに、いつの間にか階段を降りきって校舎の外に出ていた。
明るい場所に出て空気も綺麗になったような気がする。
未だ制しようとしている潮江に、気づかってくれたことへの感謝を込めて笑顔を向けた。

「ありがとう。でも大丈夫。そもそもお前には関係ないだろう?」

さて、手早く終わらせてしまって伊作と合流しなければ、と考えながら「赤外線で…」と彼らに声をかけると、後ろから肩を強い力でつかまれた。

「関係ないってこたぁねぇだろ」
「…あ、あぁ、すまなかったな。しかし」
「行くぞ」

また強い力で手首をつかまれ、ぐいと引っ張られた。転ぶ前に慌てて足を出して隣に並ぶ。
潮江の足取りは早く、普通に歩いたのでは到底追い付きそうになかったので、こちらは自然と小走りとなった。

もう彼らの声がかけられることもなかったが、潮江の怒りが全て自分に向いていると思うと、彼らがいてくれた方がまだ良かったかもしれないという気にすらなってくる。

そう思ってしまうほどに潮江は不機嫌で、隣にいると空気からじわじわと怒りが伝わってくるほどだった。















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