その日、誰かが嘘をついた

※死ネタ?
※ハッピーエンドではありません









文次郎が忍務で出掛けてから、もう10日も帰って来ない。
10日前のあの日、奴は自信満々にこう言った。

「今日中に終わらせて帰って来る」

しかし、どうしたことか一向に帰って来ない。奴はきっと何かへまをやらかして帰って来れないのだ。そうに違いない。

大抵、忍がへまをやらかせば命はない。あいつがどんな忍務を任されたのかは知らないが、卒業間近の6年にはプロの忍と同じ程度の依頼が来ることも多い。

せめて気をつけて行けよと言ってやれば良かった。そうすれば何かが変わったかもしれないのに。あいつと最後にどんな言葉を交わしたのかも、私は覚えていなかった。




「仙蔵、変な気を起こさないでくれよ」

伊作が言う。私の部屋で、心配そうに少し微笑んで。

「文次郎は簡単に死ぬような男じゃないよ。きっとどこかで生きてる」
「そんなことは分かっている」

ふっと気持ちが楽になった。そうだ。あいつはきっと、どこか暗い場所に閉じ込められて出て来れないに違いない。
ならば、私が助けに行かねば。他に誰があいつを助けることが出来るだろう?
私しか居ない。




「お前だって本当は分かってんだろ?あいつがどうなったか」

留三郎が言う。中庭の倉庫近くで、池を見つめながら。

「ああ」
「…お前だけじゃないぞ」
「何が」
「お前みたいな気持ちになってんのは」

留三郎は私に背を向け、そのまま歩き去ってしまった。どうやらあいつには人の気持ちが分かるらしい。私は、文次郎が意外と留三郎のことを気に入っていたことを知っていた。
池に目を向けて「良かったな」と、今は居ないあいつに呟いた。




「文次郎のことは忘れた方がいい」

小平太が言う。中庭の門近くで、彼には似合わない難しい表情で。

「何故?」
「だって、先生が探しても見つからないんだ。仙蔵は文次郎の忍務の場所すら知らないじゃないか」
「…そうだな」
「だから、忘れろ」
「…そうする」

くるりと小平太に背を向けて部屋へ向かう。
小平太は理屈の通じにくい男だが、大抵は正しいことを言っているような気がする。忘れた方が楽だ。そんなことは私だって知っている。
出来ることなら忘れてしまいたい。




「お前は何も言ってはくれないのか?」
「…………」

他には誰も居ない図書室で。長次は私の姿を認めると、読んでいた本をパタリと閉じた。

「文次郎なんて男は初めから居なかったのだろうか」
「…………」
「どう思う、長次」
「……文次郎は、居た……」

ボソボソと、小さな声が耳に届いた。

「やはりか」
「…………」

訝しげな視線が私を捉える。
「何故意見を求める」と。
見透かされたような気がした。誰が何と言おうと、私は最初から決めていたのだ。

「常識とか世間体とか、色々考えることがあるんだよ。協調性があるから、私には」

少し嫌味を込めて言ってやると、長次の口の端が少しだけ吊り上がった。にやり。

「……どの口が言うか……」
「何か言ったか?」

にこりと返してから図書室を出て、やはり今更かと自嘲の笑みに変える。
誰が何と言おうと、どこまでも続くのだ。私とあいつの関係は。




次の日。図書室に訪れたのは立花の身を案じた保健委員長。

「仙蔵来てないよね。昨日の昼から居ないみたいなんだけど、長次、何か知らない?」
「…………」

ゆっくりと首を横に振る長次に、伊作は納得したように「ありがとう」と頷き、また他の誰かの意見を求めるべく図書室を後にした。









end.

お題お借りしました
「ギルティ」




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