仮面を剥いでも ※オリ♂視点 ※仙様女装です 交代で見張れ、と命令され、やって来た地下牢には1人の少女が正座していた。 後ろで手を縛られ、困惑した様子の少女が不安そうにこちらを見る。 白い肌に紅の引かれた赤い唇。どうしようもなく目が奪われる、驚くほど美しい少女だ。 鉄格子越しにでも、語りかけずにはいられなかった。 「…君、何したの?」 「私…何も…」 「でも、こんな山の中で…」 「迷ってしまって…」 切れ長の大きな目は強気な印象だが、怯えて瞳を潤ませる彼女は、実際随分と弱々しい。 彼女は、高くて細い、思った通りの声を出した。 「じゃあ何で捕まったの?」 「…スパイか、と問われて…」 「…そっか」 体型はすらっとしていて、髪も艶やかだ。 きっとどこかの家で大切にされている一人娘に違いない。 無理に綺麗な娘をこのような場所に捕らえて来るなど、男たちでこの娘を慰み者にする他に何か理由があるだろうか。俺には、思い付かない。 「…私、どうなるんですか?」 「さぁ。俺は下っ端だから」 綺麗な桃色の着物の裾が土に汚れてしまっている。 今に、その頭のてっぺんから爪先まで汚い大人たちに汚されるのだ。その様子を想像して、吐き気がした。 「結婚はしてるの?」 「え…いいえ」 「じゃあ男と寝たことない?」 「…え…」 見張りの者のために置いてある木の椅子を持って、懐から取り出した鍵で牢屋に入り、入り口を開けたまま彼女に近寄る。 椅子を傍に置いて、背後から両腕をつかんで立たせてやった。 「座りなよ」 「…」 ぐっと肩を押すと、彼女は怯えたように俺を見ながらそっと椅子に腰をかけた。 「で、経験は?」 「…そんなこと、」 「君は、今から大勢の男に姦淫されるよ」 綺麗な切れ長の目が限り無く真ん丸になって俺の姿を映す。 そうして、ガタガタと震え出した彼女はしかし逃げ出そうとする気すらないように見えた。入り口は開きっ放しだと言うのに。 「逃げたい?」 「…はい…」 「じゃあ逃がしてあげる」 「え…?」 「…その代わり、さ」 顎をとらえて上を向かせる、顔を寄せてふっくらとした唇に吸い付こうとした。 しかし、強い殺気を感じた瞬間首の後ろに重い重い打撃を喰らい、気付いたときには俺の体は冷たい土の上に転がっていた。 うまく呼吸が出来ずに、胸をかきむしる。 「…ぐ…っ…!」 「下衆が」 背後から低い低い男の声が聞こえて、喘ぎながら振り返るとそこには忍装束を着た隈の酷い男が立っていた。 ボスッ!と腹を蹴られて呻き声が漏れる。痛みから逃れるように体を丸めると、凛とした声で「やめろ」と言った彼女が、俺を守るようにして俺と男の間に立った。 男は驚いて勢いを失くす。 …しかし、彼女の縄はいつの間に解けたのだろう。 「おい、情でも移ったか?」 「一方的な暴力を奮うことに何か意味があるなら教えて貰おうか」 「…あのなぁ。元はと言えばお前が捕まったのが悪いんだろうが!第一、今何されそうになったか分かってんのか?」 「私は既に縄抜けをしていたんだ。お前が手を出す必要などこれっぽっちもなかった」 縄抜け、と聞こえた。この女はただの女ではなく忍だったらしい。今さら気付いても遅いが。 ようやく呼吸も落ち着いてきて、うるさく言い合う2人を見上げながら「ちょっと、あんたら」と声をかけると、2人同時に「なんだ」と不機嫌そうな表情で振り向いた。 息がぴったりだ。まるで熟年夫婦のような空気がこいつらの間にあるのを感じた。 「…味方が助けに来てくれたみたいで良かったな」 首と腹の痛みを堪えながら立ち上がると、彼女は酷く冷たい目で俺を見てから「ふん」と鼻を鳴らした。さっきと態度が違いすぎる。 女というのは演技が上手だ。 男が「行くぞ」と言って入り口へ向かう。俺は、ふとあることが気になって彼女の背中に呼びかけた。 「おい、くのいち」 「…は?」 「…そいつとは、寝たの?」 彼女の目がカッと見開かれた次の瞬間、凄まじい爆音と爆風、それから熱に押されて後ろにひっくり返った俺は、後頭部を壁に強打した。 何が起こったのかは分からないが、どうやら図星だということだけは分かった。 もうもうと砂煙が舞う中、焦点の合わない目では何も見えず、無闇に動くことも出来ない。 仲良く言い争いながら遠ざかっていく声を、ただ聞いていた。 end. |