理由はぜんぶ"好きだから"

※現代
※仙蔵と留三郎が6歳児
※留伊?









「文次郎!留三郎が来てる!」

公園に着くなり駆け出して行く仙蔵。その方向を見れば、いかにもやんちゃそうな坊主がキコ、キコ、とブランコを派手に揺らしている。
傍らのベンチには、穏やかな雰囲気を身にまとった明るい髪色の男が居て、此方に向かって微笑みかけていた。

「よう、伊作」
「やあ。相変わらず元気だねぇ」

誰が、とは言わずに幼稚園児を見つめる伊作の隣に腰をかける。
伊作とは小学校の頃からずっと同じ学校に通っているが、こんなに話すようになったのは最近のことだ。
きっかけは勿論、ブランコを揺らすチビ二人。

「それ、どうしたんだ?」

近くで見ると、伊作の額に擦ったような傷痕があった。それもかなり新しい傷のようで、じんわりと血が滲んでいる。

「はは、ここへ来る途中、電信柱にぶつかっちゃって」
「お前だけか?怪我したのは」
「うん。留三郎は大丈夫だったよ」

伊作が怪我をするのは珍しいことではない。不注意なのか運が無いなのか、面白いくらいの確率でいつも何かと散々な目に遭うものだから、伊作と俺は留三郎までもが被害を受けないかどうかを普段から心配しているのだ。

「血出てるじゃねえか。ちゃんと洗ったのか?」
「えっほんと?うわぁ、目立つよね」
「いいから早く洗って来い」

目線で公園の中心にある水飲み場を示せば、伊作は照れたように頭を掻きながら立ち上がった。

それを見た留三郎が、ブランコに大きく揺られながら慌てたような声を出す。

「伊作!どこ行くんだ!」
「あ、ちょっと水飲み場ま、で…っ!」

その瞬間、留三郎の全神経が伊作に奪われてしまったのだろう。
立った状態でブランコをこいでいた留三郎の両手がブランコの鎖から離れた。

小さな体が宙に放り出され、
ズシャァァッ!
と、滑るように地面に落ちた。

「留っ!」
「うー…」
「危ないからッ、頭をそのまま…!」

伊作の叫ぶような声が、留三郎の耳には届かなかったらしい。
涙を堪えて地面を睨むように見つめながら、むくりと上半身を起こした。

振りきれたブランコが、留三郎の額を目掛けて急降下し始める。


俺は伊作の声を聞いた瞬間立ち上がって駆け出していて、ブランコを囲う低い柵を飛び越えて右手を伸ばした。
…届け!!

ガッ!
と、指がブランコに引っ掛かる。

留三郎の額に、ブランコが直撃する寸前だった。




「痛って…!」

剥がれるかと思った爪を庇うように、左手で右手を押さえ身悶える。
留三郎は、何が起こったのかまだ良く分かっていない様子だ。

仙蔵は、ブランコを降りて留三郎に寄り添ってしきりに「大丈夫か?」と尋ねている。
伊作も駆け寄って来ると、留三郎の体についた砂をパンパンと払った。

「…留三郎、怪我は無い?」
「うん」

留三郎は伊作に向かって頷くと、直ぐに此方に目を向けて「…ありがとう」と小さく呟いた。

「…おう」
「さ、今日はもうブランコはやめて、滑り台で遊んで来たら?」
「うん。行こう、仙蔵」
「ん」




ぱたぱたと素直に駆けて行く小さな2つの背中を見送る。すると、伊作は力が抜けたかのようによろめいて、そのままブランコの柵にとすん、と座った。

「はぁ…ありがとうね、本当に…。留三郎が怪我したらどうしようかと思った…」
「そうだな。…でも今のは、お前のせいじゃないぞ」
「そう…なんだけど」

俯いて額を押さえる伊作は長い長いため息を吐いて、何かを耐えるようにギュッと唇を噛みしめていた。

「いつか、あの子が僕のせいで…」
「…伊作」
「と思うと、さ」

更に深く俯いた伊作の表情は分からない。
しかしその特異な性質は、自分が思っていたよりも重く彼の心にのしかかっている、ということは分かった。

何と言葉を返そうかと迷っていると、またぱたぱたと、先程よりも急いでいる様な足音が聞こえた。

「お前!伊作を泣かせたな!」
「え」

どんっと腰の辺りを押されて見下ろすと、非常に憤慨した様子の留三郎がきつい目付きで此方を睨んでいた。
見ると、仙蔵も滑り台の方から留三郎を追いかけて走って来ている。

「あっち行け!馬鹿!」
「え、えっと」
「留三郎!違うよ、泣いてないよ!ほらっ」

ポカポカと殴られて(痛くはないが)視線で助けを求めれば、伊作はパッと顔を上げて不自然過ぎる程満面の笑みを浮かべた。

「…ほんとか?」
「ほんとほんと!」

疑わしそうな留三郎と、何故かすがるような目で俺を見つめる仙蔵。

…そんな目で見られても。

「伊作、行こう」

留三郎が伊作の手を握って、伊作は困ったように、それでいて嬉しそうに笑いながら留三郎に引っ張られて行った。
それを見た仙蔵が俺の指を2本、きゅっと握る。

「私たちも」
「おー」
「文次郎の膝の上に乗って滑る」
「えっそれは…絵的にどうだろう」
「いいからいいから」

ぐいぐいと、小さな体にしては意外な程の強さで引かれながらそれも頼もしく感じた。

多分伊作も、留三郎を頼もしく感じていることだろう。
そう思うと安心して何だか嬉しくなり、仙蔵に合わせるようにして滑り台まで走った。









end.

お題お借りしました
「ひよこ屋」





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