俺があいつで、以下略

※仙文要素有り




ある日部屋を出ようとして戸を開けたら
丁度鍛練から戻って来た文次郎と思い切り頭同士をぶつけ、二人揃って意識を失った。

そして。
次に目覚めたとき、私たちの中身は入れ替わってしまっていた。




ごつごつした手のひらを何回も何回も握って、開いて、握って、開いて、…。

「…どうしよう…」
「……」

文次郎は何故か私の髪を握りしめ、さっきからずっと部屋の中をぐるぐると歩き回っている。
私の姿で変な動きをするのは出来ればやめてほしい。

最初に意識を失ってからどれほどの時間が経っただろう。
ぶつかったときは朝だったが、今は少し暗くなってきていた。
外からは体育委員の声が聞こえる。いつものように滝夜叉丸が小平太に苦労しているのだろうか。

「…あっ」
「…何だ!どうした!」
「いいことを思い付いた」
「何っ!!」

にんまり笑って言うと、文次郎は目を輝かせて勢い良く私の肩を掴んだ。

「…自分に肩を掴まれるというのも貴重な体験だな…」
「早く言えッ」
「ふふ」

文次郎の腕を掴んで、その場に引き倒す。
少し力を込めただけでいとも簡単にその体が傾いたことに少し驚いたが、表情には出さない。

「いてぇな…何だよ、いきなり」
「しっかり受け身を取れ。私の体だぞ」

顔を歪ませている文次郎に、にっこりと笑いかけると文次郎は更に顔を歪めた。
自分の満面の笑顔が気持ち悪かったのかもしれない。

「ヤろう」
「………何を」
「不粋なことを聞くな。全くお前は…」
「ッ…まさかお前…!」

文次郎は何かを察したように切れ長の目を見開くと、途端に逃れようと体を捻った。しかし腕を押さえ付け胴体に馬乗りになり、逃がしはしない。

「ははは。流石、良く鍛えられている」
「くっ…!信じらんねぇ、こんなときに…!」
「…戻るかもしれんぞ?」
「んなことで戻るかぁぁ!!」
「まぁまぁ。私のイイところを教えてやろう。なっ」
「おまえ…まさか自分の体に突っ込む気じゃ…」

サッと青ざめた文次郎に微笑みかけて肯定しようとした、そのとき。

「お約束の、アタックだぁぁー!」

「っ先輩!そっちは6年長屋…!」

ドカーン!!




小平太の打ったバレーボールが部屋の戸をぶち抜き、私(体は文次郎)の後頭部を直撃した。
更にバレーボールの勢いに押され、組み敷いていた文次郎と額同士を強打してしまい…




仙蔵の意識はそこで途絶えた。









「…」
「よう」
「…文次…」

ズキズキと痛む額に顔をしかめながら目を開ける。すると、見慣れた文次郎の顔が私を見下ろしていた。
と、いうことは…、

「戻った…」
「おう」
「そうか。……ん?」

腕が動かない。
どうやら文次郎に押さえつけられているらしい。

「痛いんだが」
「さっきの仕返しだ。さて、お前のイイところを教えて貰おうか」
「…」

からかうような口調で言いつつ割と真剣なその目を真っ直ぐ見つめ返し、全身の力をふっと抜く。
するとそれを合図に文次郎の手は私の腕を解放し、片方で私の頭を撫でつつ、もう片方の手を襟から侵入させた。

私は両腕を文次郎の首に絡め、口付けをするふりをして
ゴンッ!
と、勢い良く頭突きをお見舞いしてやった。

今度は意識を失うほどの衝撃でもなく、しかし加減しなかっただけあってそれなりに痛みを伴い、

「〜ッ!」

自分でやっておきながら額を押さえて身悶えるという何とも情けない結果となってしまった。

「何やってんだ、バカタレ…!俺は額も鍛えてるからいいがお前はごく普通の額だろうが」

私を襲うのも忘れて心配してくれるのは嬉しいが、そういう文次郎の目も若干潤んでいる。
きっとやせ我慢しているだけなのだろうが、…その態度が気にくわない。

「…ッ余裕ぶるな、お前が石頭なだけだ…!」
「てめ…人が下手に出てりゃ」
「何が下手だ。獣が」

「好きに言えよ。言っとくが、お前が本気で嫌がろうとも、無理やり事に及ぶことだって出来ると今日分かったんだからな」




今は勝ち誇ったような表情の文次郎が、半壊している戸と共に吹き飛ばされるところを想像して笑みを浮かべながら、
私は懐に手を差し入れた。









ボールを取りに来た体育委員に重なって伸びているところを見られていた私達は、後日小平太に散々冷やかされ、随分と恥ずかしい思いをしたのだった。




end.

お題お借りしました
「確かに恋だった」




[*prev] [next#]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -