3.もう誰にも触れさせないよ

日差しは温かいが、秋の冷たい風がふく日も増えてきた。
水泳の授業は、今年はこれで最後になる。
練習の成果を発揮するため、クラス対抗のリレー戦が予定されていた。

1組のアンカーは、皆の予想通り、立花だ。
選ばれた本人は、自慢気に頷いた。

「ま、当然」
「はっはっは、負けないぞ!」
「こっちだって」

2組アンカーの七松が、有り余る体力を見せつけ、腕を振り回し威嚇しにきた。
隣に立つ潮江が眉を寄せて唸る。

「なんでアンカーが俺じゃねえんだよ……」
「私にいつも僅差で負けているくせに」

事実を聞かされ、言い返せず舌打ちでごまかす。

「わはは、文次郎、筋肉ばかりで浮かないんじゃないのか?」
「お前に言われたくねえ!」

七松に背を叩かれ前のめりになり、悔しげに叫んだ。




授業終了前となり、締めくくりとして行われるリレー。
体力測定も行われた今日は、さすがの男子高校生たちにも、疲労の色がうかがえた。
ただ一人を除いて。

1組、2組のアンカーが、ほぼ同時に飛び出す。

「いけいけどんどーんっ!」

七松は無駄な跳躍力を見せ、激しい水飛沫をあげた。それに対し立花の泳ぎはスマートで、ほとんど水が跳ねない飛び込みを見せた。

七松の泳ぎは、ドルフィンキックも力強い。そして、100%の力で泳いでいるらしい。
やはり誰よりも速かった。

立花もラストスパートをかけて追うが、七松の勢いは衰えることなく、皆が見守る中、勝負はついた。

「やったーーー長次っ!」

水から上がり、跳びはねてクラスメイトの中在家に跳びつき、勢い余って頬に口づけ、他生徒とハイタッチをして喜び回っている。

「あの、体力バカ……!」

プールからあがった立花は、膝に手をついて、ぜいぜいと肩で呼吸をしていた。

「畜生、俺がもっと追いあげていれば!」

ガシャン!

鳴る金属音は、潮江が金網に頭をぶつけた音だ。
いつものことなので、クラスメイトに気にする者はいない。
遠くで、3組のメンバーは目を丸くしているが。




「なんだ、これ」

シャワーで塩素水を流し、狭い更衣室で全員が制服に着替える中、潮江は自分のロッカーを覗いて、一通の封筒を手に取った。

「ラブレターじゃないか!?」
「……可能性は、ある……」
「とんだ物好きもいたもんだぜ」
「開けてみようよ」

皆の視線が集まる中、立花の手がそれを取り上げた。















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