A 「ふむ」 「何やってんだ、仙蔵?」 すでにきっちり制服に身を包んだ立花は、光にかざしたり、厚さを見たりと、封筒を隅々まで調べている。 「剃刀なんか仕込まれてないかと思ってな」 「あ、ああ、そうか」 必要以上に折り曲げて、どんどんシワが寄っていく封筒。立花の指にこめられた力は、存外強いようで、潮江の頬がひきつる。 しかし前回とは違い、封筒には宛名、差出人名ともに記入してあるため、その心配はなさそうだ。 くしゃくしゃになった封筒は、ようやく安全だと判断され、潮江の手の中に戻った。 「信吉ひろき。誰だ?」 「……3年じゃ、ない……」 「早く開けろよ」 「ほ「こらお前らァ、ダラダラせんと、早く着替えないか!」 突然伊作の台詞にかぶって轟いた、体育教師の声に皆飛び上がり、着替えを終えた者から、更衣室から流れ出ていった。 昼休み。 潮江は、指定された場所に向かうため、鐘が鳴ると同時に教室を出た。 予想していたことだが、後ろから立花が追ってきた。 「文次郎、弁当置いてどこに行くんだ」 「……すぐ戻るから、教室で待ってろ」 「トイレなら一緒に」 「違う」 立花をトイレまで送り、校舎裏へと向かった。 「潮江先輩、来てくれたんですね……!」 待っていたのは、明るい茶髪パーマの、大人しそうな男子生徒だった。 ネクタイの色から見て2年らしい。 細身だが、身長は潮江と同じくらいだろう。 「信吉か」 「はい、ひろきです。先輩、あの、来てくれてありがとうございます」 背筋を伸ばしてそう言うと、腰から折り曲げて頭を下げた。 居心地の悪さに、頭をかく。 「……で?」 「その、僕、1年の頃から」 目をキラキラさせて近寄ってきた後輩の勢いに押され、数歩後退る。 「ずっと潮江先輩のこと、見てて」 「はあ。……え」 がしっと両手を握られた。逃げられない。 「友達からでいいんです」 「あのな、何で」 「お願いします……!」 信吉の目が自分を捕らえている。何で俺なんだと叫びたくなるのを、すんでのところで押し込めた。 答えに詰まっていると、その目が段々潤いを増していく。 潤んだ目は、昔飼っていた犬のそれに、なんだか似ていた。 こいつは全くの他人なのに、と自分にため息をつく。 「……分かった。友達なら」 「いいんですかっ、ありがとうございます!」 「うおおっ、ちょ」 正面から抱き着かれ、ただ固まることしか出来なかった。 |