A

車道側を歩く。

立花は、潮江の授業中用の眼鏡を、数歩進んでは押し上げている。サイズも合わないだろうが、眼鏡自体に慣れていないという理由もあるだろう。

道の端を歩く彼と、眼鏡越しに目が合った、ような気がした。

「……大丈夫か?」
「ああ。輪郭は分かる。問題ない」
「輪郭ってオイ」

この至近距離で顔が見えないのは、潮江にとっては、ほぼ見えないのと同じだ。

転びはしないか、溝にはまりはしないか、電柱にぶつかりはしないか。一歩進むごとに、不安要素が増えていく。

手を繋いで……?
いや、しかし。

隣を歩く立花の視線は、ひたすらに前を向いていた。手は無防備に、歩く動作に合わせて揺れている。

生唾を飲み込む。

マズイ。
緊張するあまり、額に汗が滲んできた。

駄目だ。汗をかいたこの手で、手を握るわけにはいかない。




前方から車が走ってきた。

視界の悪い立花は、エンジン音を聞いて足を止める。
それに合わせて立ち止まり、車が通り過ぎるのを待って、また歩き出す。

と、

立花の手が、潮江の袖を握っていた。

「悪い。こうしてもいいか?」
「ああ……当たり前だろ。遠慮すんな」
「ありがとう」

厚い眼鏡で表情は分かりにくいが、ほっとしたように息をはいたことは明らかだった。

潮江は、立花のしたいようにさせてやろう、と、その状況だけで満足していた。















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