好きだ 俺たちは相思相愛だ。寝起きは素直だよな。お前も、俺にべた惚れだろ?……って、 「何を勘違いしているんだ、お前は」 恥ずかしい言葉の連発に、冷たい反応を返せば、ちぇっと舌打ちが聞こえた。 (素直じゃない、って。私が素直だったことが、今までに一度でもあったか?) 文次郎に対して、仙蔵が素直になれるのは、夢の中でだけだった。 夢の中で、文次郎は黙って微笑み、優しく髪を撫でてくれて、「好きだ」と囁いてくれて初めて、仙蔵の口からも素直な言葉が出る。 惚れてる。ずっと、こうしていて欲しい。キスして、抱きしめて……好きだよ。 しかしそれは所詮夢の話だ。 いつも目が覚めたとき、そこに文次郎はおらず、たいていは、仙蔵のために朝食を作ってくれている。 「ほら起きろ。コーヒー、飲みたいっつったろ」 いい香りが鼻をかすめて、体を起こす。 そこにはいつも、夢の中のように、優しい笑みを浮かべた文次郎が立っているのだ。 |