深夜、医務室にて

「や、伊作くん」
「うわああ…!あ、こ、こんばんわ。雑渡さ、ん…」

振り向いた伊作は、いつの間にか背後にいた人物に迫られ、押されるように壁へと背中をつけた。
蝋燭のわずかな明かりでは、ただでさえ覆われている彼の表情を読み取ることはできない。
至近距離で、次に何をされるのか分からない。一瞬のうちに刺されて殺される可能性だってある。しかし伊作は逃げなかった。逃げようとする動作を一つも見せず、ただ行動の意味を瞳で問いかける。

「どうもしないよ」
「!」

雑渡は、その髪に手を伸ばしたとき少年の肩が動揺に揺れたのを見逃さなかった。

「近くを通っただけ」

伸ばしかけた腕の軌道を変え、行き場を無くした指で包帯に包まれた頬を掻く。

「…包帯を、巻きかえましょうか」
「いいや、今回は部下にやってもらうよ。…急ぐからね」

障子を開け、月光を受けて佇む伊作を振り返り、雑渡は、きっと伝わらないであろうことを知っていながら口元に優しい笑みを浮かべた。
手を振って闇に消える。

伊作は、背を壁に預けたまま、ずるずると床に尻をついた。
震え出す指を、抑えるように握りしめる。

「…急いでるのに、どうしていつも…」

夜に雑渡が訪ねてくるたび、おかしな気分になる。
怖いのに、また、来てほしいだなんて。
夜に、僕だけに会いに来てくれるあの人は、一体どういうつもりなのだろう。

「はあ…」

しばらくそうしているうちに蝋燭の火が消え、伊作は取りに来た薬草を手にのろのろと医務室を後にした。








end.







おそまつさまです





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