こっちへおいで

火薬倉庫の整理を終えて、委員会全員で食堂へと向かう途中、
立花先輩と、立花先輩に群がる2人の1年生が何やら騒いでいた。

「しんべヱと喜三太だ」

伊助が声をあげたことに釣られて、俺たちも足を止める。

「先輩〜髪触らせてください〜」
「お願いします〜」

どうやら、小さい2人組は立花先輩の髪が目当てらしい。
先輩と目があったので、軽く会釈して「どうも」と挨拶をした。

「あぁ、久々知。ちょっとこっちへ来い」
「はい?」

このタイミングで呼ばれたことに、何だか嫌な予感を抱く。しかし俺が立花先輩に逆らえるはずもない。
近寄ると、先輩の指が、俺の髪を撫でた。

「お前たち。私は久々知の髪も綺麗だと思うぞ。なぁ、斉藤」
「うん。久々知くんの髪は柔らかくて綺麗だよ」
「じゃあ、触り比べてみてもいいですかあ?」

先輩の笑みが僅かにひきつる。どうやら墓穴を掘ったらしい。
先輩の背に流れる髪は絹よりも艶やかだ。
おもむろに手を伸ばし、その髪を撫でた。

「っ!」

過剰に驚いた先輩は、俺から離れるように距離を取った。
何だか、野生の猫に警戒されているような気分だ。

「あー。いいなあ、久々知先輩」
「サラサラでしたか〜?」

2人の後輩の視線が俺に向いた途端、立花先輩は「じゃあ、私は忙しいからこれで」と、逃げて行ってしまった。

「「あ〜、先輩…」」

ちぇっと残念そうに呟いた2人組も、本当はただあの綺麗な先輩に構ってもらいたかっただけなのかもしれない。

手のひらに残った感触は、しばらく消えそうになかった。









end.



久々知くん悶々シリーズになってきた





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